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『ブレードランナー 2049 』 − アイコニックなルック制作の舞台裏

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『ブレードランナー 2049 』 − アイコニックなルック制作の舞台裏

2017年待望のリリースを果たした、ネオ・ノワール SF スリラー『ブレードランナー2049』は、その不気味でありながら趣のあるディストピア的な映像美で賞賛を得ました。 

BAFTA(英国アカデミー賞)及びアカデミー賞を受賞した VFX スタジオ Framestore は、この作品の背景アセット制作いおいて中心的役割を果たしました。

リードテクスチャアーティストの Adam Goldstein 氏、Framestore モントリオールのテクスチャリングチーム リーダーを務める Michael Borhi 氏に、制作の舞台裏について話を伺いました。

複雑化が進むアセット制作

『ブレードランナー 2049』の壮大かつ複雑な背景制作という大仕事を請け負った Borhi 氏は、アサインされたタスクを前に驚きを覚えたと言います。

昨今のアセット制作のトレンドについて、 Borhi 氏は次のように話します。「アセット制作は近年、規模が拡大し複雑さが増す傾向にあります。

手がける作品は一つとして同じものはありませんから、アプローチの仕方については常に見直す必要があります。ヒーローアセットは、2D、3Dともに、その作品の世界観をより鮮明に反映しているものが多くなっています。」

Editing of the sea in Blade Runner 2049

 

アセット構築にはある程度の写実性も求めらるようになり、こうしたトレンドに対して迅速に対応する必要がありました。「制作過程における演出上の変更に備えて、通常とは異なる手法でアセットを作成する必要も生じています。」Borhi 氏は言います。

「ショットの前後関係やカメラ位置は常に変化し、背景アセットが突然フル画面になりクローズアップされることもありますから。」

制作作業ではスケジュールや演出上のさまざまな要因から予期せぬ修正が発生する可能性があり、効率よく対応するには非破壊的ワークフローを最大限に活用してプロダクションから要求されるクオリティと納期を守らなければなりません。」

こうした不確定要素が重なって生じた作品固有の課題への対応が必要でした。

ラスベガス

劇中に登場する近未来のラスベガスは圧倒的な映像美に彩られ、きわめて象徴的に描かれています。

Goldstein 氏は、このラスベガスシーンこそ、制作プロセスにおける最大の難関であったと振り返ります。「監督の Denis Villeneuve は、後輩した街を非常に繊細に表現しようとしていました。像や車などの主要アセットが置かれた街を砂嵐が吹き荒れる一般的な演出方法だけでなく、風にはためく衣服や、窓にキラキラと反射するドローンのライトなどによって、ショットの臨場感を表現したのです。

建物の損傷についてもさまざまな表現方法を検討しましたが、監督はこの街が戦争での爆弾投下によって廃墟となったわけではないことを明確に描くことにこだわりました。

ですから建物を無傷の状態のまま残し、乗り捨てられた車を通りに何台も置くことで、かつての歓楽街の面影を描写したのです。面影を残したまま廃墟と化した巨大都市を、静物のみ表現するのに非常に苦労しました。」

Two part image of the editing process in Blade Runner 2049

 

さらに、ラスベガスの広大のスケール感の表現も課題の一つであったといいます。「劇中のラスベガスは、実際の街のサイズに比べてはるかに巨大な都市です。途方もなく広がる空虚で荒れ果てた街の中に漂う混沌とした雰囲気と、そこに積み重ねられた時間をも描く必要がありました。

大規模モデルを用いたり繊細なテクスチャを多用したりするだけでは、満足のいくような表現はできませんでした。建物を追加し、テクスチャのディテールやマップをレンダリングしながら街の配置作業を進める中で、小さな建造物や、建物の内部や外部に取り付けられた建具や装飾などが、街にスケール感をもたらしていることがわかりました。モデリングとテクスチャリングの両方でこうしたディテールを散りばめることが、ディテール自体のクオリティ同様に重要でした。」

ドローンの空撮映像 

高いビジョンを掲げる監督の期待に応えるのは容易なことではありませんでした。とりわけ、当初カットなしのロングショットの予定であった、ラスベガスシーン冒頭のドローンによる撮影映像ショットのレンダリングは困難を伴ったといいます。「Framestore モントリオールでこれまで手がけたものの中でもレンダリングにもっとも長い時間を要し、すべての複合パスをレンダリングするのにコアタイムだけでも 100 万時間強かかりました。」Goldstein 氏は言います。

「一晩かけたレンダリングにミスがあれば膨大な損失につながってしまいますから、テストレンダリングであっても緊張感を伴いました。」

Born 氏も次のように言います。「街全体のすべてのデータを一つのコンポジションとしてレンダリングにかけ進捗状況を管理するのは、表現的にも技術的にも非常に大変な作業でした。」

Statue of a girl in Blade Runner 2049
Scene in Blade Runner 2049

砂嵐

技術的な課題はそれだけではありませんでした。中でも赤い砂で覆われたラスベガスの街のカットは、2009年にオーストラリアのシドニーで起きた砂嵐を参考に、クライアントから支給されたブルーバックではない実写プレートを用いて制作されましたが、その映像表現は困難を極めるものでした。「視界範囲が常に変化するうえに建築物の数が多いため、テクスチャリングするアセット数をできるだけ絞り、コントラストや色味を最小限に抑えルックを調整する必要がありました。

最初、視界範囲と砂嵐までの距離を同じにしたところ、建築物の見え方やディテールのバランスは良かったのですが、砂嵐の粒子が粗く非現実的な表現になってしまったことから、視界を広げることになりました。

視界のかすみが減少するとディテールが現れて画面のコントラストが強くなり過ぎてしまい、またショットの構成要素はリファレンスの何倍ものサイズであったため、ルックデブとテクスチャリングの両方で視界範囲と大気密度の調整を行いました。」

独特のルック制作プロセスの詳細は、こちら。