大ヒットシリーズ『Heated Rivalry』のVFX制作の舞台裏

CRAVE/BELL MEDIA

FOLKSが手がけた“目に見えないVFX”とは

カナダの配信プラットフォームCrave発の話題作『Heated Rivalry』は、豊かな表現力と感情に響くストーリーテリングによって、世界中のファンを魅了している。本作は、Rachel Reidによる小説シリーズ「Game Changers」を原作に、架空のメジャーリーグ・ホッケー(MLH)に所属する選手たちの関係を、数年にわたって描いたゲイのアイスホッケー・ロマンスである。

本記事では、VFXスーパーバイザーのSimon Devault氏と、コンポジティング・スーパーバイザーのChristophe Trépanier氏へのインタビューを通じて、FOLKSが手がけた『Heated Rivalry』のVFX制作の舞台裏と、Nukeが物語の重要なシーンをどのように支えたのかを紹介する。

Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter receiving the cup

モントリオールに本拠を置き、現在は世界各地に10のスタジオを展開するFOLKSは、2017年公開のホッケーコメディ映画『Goon: Last of the Enforcers』(邦題『俺たち喧嘩スケーター2:最後のあがき』)にも携わった。こうした実績に加え、ホッケーへの深い理解も、『Heated Rivalry』の制作を支える確かな土台となった。さらに彼らは、これまでに培ってきた観客シーンの拡張手法を本作にも活用している。技術の進化に伴い、その手法もより洗練されたものとなっている。

架空のホッケーリーグを構築する

FOLKSは全115ショットにわたり、本作のホッケーシーンすべてで、セットエクステンションおよび観客の制作を担当した。撮影はオンタリオ州の小規模なアリーナで行われ、各ショットでは前方の観客席を活かしつつ、約20列目以降はすべて置き換えている。プレート撮影には約50名のエキストラが参加し、さらにFOLKSのメンバー自身も含め、追加で約30名をグリーンスクリーン上で撮影することで、シーンを完成させた。

Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter receiving the cup

FOLKSのVFXスーパーバイザーであるSimon Devault氏は、次のように説明する。「観客については、すべてNukeXでのコンポジットによって制作しています。各座席に手作業で人物を配置するのではなく、Particle Systemを使って観客席を埋めています。まずCGチームがスタジアム内のすべての座席にロケーターを配置し、そこから各座席ごとに1つのパーティクルを発生させました。」

また、FOLKSのコンポジティング・スーパーバイザーであるChristophe Trépanier氏は、次のように続ける。「Particle Systemを使うことで、観客の配置を柔軟にコントロールできます。群衆シーンでは、パーティクルを発生させると同じ人物が隣り合って配置されてしまうことがありますが、各パーティクルのIDを活用することで、他の要素に影響を与えることなく、シミュレーション上で人物をすばやく差し替えることができました。」

Heated Rivalry VFX breakdown hockey crowd
Heated Rivalry VFX breakdown original plate

観客シーンの構築

一部の観客ショットはプレートとして提供されていたが、ダイナミックなカメラワークや特殊なアングルには十分に対応できないという制約があった。そのためチームは追加で観客の撮影を行った。また、CGで観客のバリエーションを増やすことも可能ではあるが、細部までフォトリアルに仕上げるには多くの時間を要する。そこでFOLKSは、実際に人を撮影してショットに組み込むという、これまで実績のある手法を選択した。

Heated Rivalry VFX breakdown Shane Hollander in front of hockey crowd

この手法では、制作部から支給されたチームカラーのジャージや帽子を着用し、さまざまなアングルでエキストラを撮影した。さらに、シーンに応じた感情表現もあわせて収録している。たとえば、ゴールが決まった場面では歓喜、乱闘の場面では怒り、自チームが失点した際には落胆といった具合である。こうして収録した素材をチーム別・感情別に分類し、それらをもとに約1,000種類のスプライト(常にカメラの方向を向く2D画像)を作成することで、多様な観客表現を各ショットに反映している。

カメラアングルに応じた観客表現

このようなホッケーシーンでは、アクションは多くの場合、カメラと観客の間で展開される。そのため観客は常にカメラの方向を向くことになり、この手法は非常に効果的に機能する。一方で、観客が長時間画面に映り続けるショットでは、表現の難易度が一気に高まる。

Trépanier氏は次のように語る。「カメラが大きく動くショットであれば、スタジアムを埋めるのはそれほど難しくありません。同じ人物が重複していても、ほとんど気づかれないからです。しかしカメラが固定され、ロングショットになると、空間をしっかり埋める必要があり、重複している人物も一人ひとり差し替えなければなりません。そうしたショットは特に難易度が高くなります。」

Heated Rivalry VFX breakdown Shane Hollander in front of hockey crowd
Heated Rivalry VFX breakdown Shane Hollander original plate

さらに、アクションが観客の手前ではなく、別の位置で展開される場合には、シーンに応じて新たな素材を撮影する必要があった。なかでも放送用のアングルは特に難易度が高い。高い位置からリンクを見下ろすカメラに対して、観客も同様に氷上を見下ろす形になる。そのため、背面や側面から、かつ下方向を見ている観客の素材を新たに撮影する必要があった。

Trépanier氏は「実際の試合の中継映像を参考にしながら、観客がどの程度の密度で配置されているのかを確認しました」と説明する。

Nukeによる機械学習の活用

限られたロケーションで撮影したプレートを、複数の異なる会場に見せるため、チームは実在するナショナルホッケーリーグ(NHL)のアリーナを参考にした。架空のモントリオール・メトロスのホームリンクでは、モントリオールのベル・センターを着想源に、LED照明を増設して演出を強化している。一方、シリーズの中でも重要なシーンの舞台となるニューヨーク・アドミラルズのアリーナでは、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンに見られる、歴史ある建築様式や木製パネルの意匠を取り入れている。

Heated Rivalry VFX breakdown All Star game
Heated Rivalry VFX breakdown All Star game original plate

スタジアムのトップダウン照明を再現するため、エキストラはフラットに近いライティングで撮影された。Devault氏は次のように語る。「ライティングを調整する必要がある場合には、Catteryを使用して、撮影した各スプライトにUVを付与しました。そのUVを用いることで、各キャラクターのライティングを微調整し、シーンにより自然になじませることができました。また、本作の多くのショットがスローモーションであるため、群衆の動きを滑らかにする目的でもCatteryを活用しています。」

ホッケーシーン以外でも、FOLKSはNukeの機械学習ツールセットであるCopyCatを活用している。あるショットでは、俳優のタトゥー除去にも用いられた。

“目に見えないVFX”によるシーン演出

本作の中でも特に印象的なシーンのひとつとして、氷上で二人のキャラクターが観客を前にキスを交わす場面がある。このシーンでは、目に見えないVFXがストーリーテリングにおいて重要な役割を果たしている。チームは当初から、このシークエンスが感情を際立たせるべき重要な場面であると認識していた。そしてこのシーンは、LGBTQ+の表現において高く評価されるとともに、プロスポーツの世界における転換点となり得るものとして、広く称賛を集めている。

Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter and Kip kiss on the ice

Devault氏は次のように語る。「キスシーンの元となるプレートを見ると、小さく観客のいないアリーナで、カメラが回り込む中、二人の男性が向き合っているだけのシンプルな映像です。しかし完成した映像では、まるで別世界のように感じられます。セットエクステンションでスケールを大きくし、観客を加え、さらにレンズフレアを取り入れることで、より美しく印象的なシーンに仕上げることができました。VFXは、物語を語るうえで大きな役割を果たしています。」
 

Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter and Kip kiss on the ice
Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter and Kip kiss original plate

スタジオが本作のブレイクダウンリールを公開すると、『Heated Rivalry』のファンからは非常に好意的な反応が寄せられた。

「一番良かったのは、それがVFXだと誰にも気づかれなかったことです。」とDevault氏は話す。

コンポジット作業を加速するワークフロー

本プロジェクトでは、810名という少人数のチームで、かつタイトなスケジュールのもと進行していたため、いかに効率よく作業を進めるかが大きな課題となっていた。FOLKSは複数のNukeセットアップを構築することで、作業効率を高め、各アーティストがより多くのショットを担当できる体制を整えた。また、プレートが届き次第すぐに作業に取りかかれるよう、これらのセットアップはプロジェクト初期の段階で入念に準備された。

Trépanier氏は次のように語る。「技術的な部分はすでにほぼ整っていたため、私たちはテクニカルな作業よりも、クリエイティブな部分に集中することができました。」
 

Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter in front of hockey crowd
Heated Rivalry VFX breakdown Scott Hunter original plate

本作では膨大なデータを扱う必要があったため、チームはバッチ処理をはじめとするさまざまな最適化を取り入れ、ワークフローの効率化を図った。

Trépanier氏は次のように語る。「たとえば、コンタクトシート上にスプライトを配置し、複数のスプライトを1枚の画像としてレンダリングしました。これにより、ネットワークが50枚の画像を個別に読み込む必要がなくなり、1枚の画像から複数のスプライトを取得できるようになりました。」

Devault氏は次のように語る。「本作ではNukeが制作の中心的な役割を担っていました。コンポジットアーティストが群衆シーンの表現を完全にコントロールできていたのです。従来のCG制作であれば、変更のたびにCG側へ差し戻してライティングを再レンダリングし、それをコンポジターに戻す必要があります。でも今回は、すべてがコンポジターの手の中で完結していたので、とてもスピーディーに作業を進めることができました。」

Nukeのパーティクルを使って、フォトリアルで没入感のある表現を実現する方法については、チュートリアル Creating fire with particles (英語)で詳しくご紹介しています。

FOLKSによる『Heated Rivalry』のVFXブレイクダウン動画はこちら。