DNEGがMariで実現した、リアルな劣化表現と効率的なテクスチャ制作
人気ゲームシリーズを原作とするHBOのドラマ『The Last of Us』は、世界的な真菌感染の拡大によって文明が崩壊した世界を舞台に描かれている。人々は感染によって凶暴な存在へと変貌し、物語は死と腐敗に覆われた過酷な環境の中で展開される。廃墟と化し、手つかずの植物に覆われた街並みは、本作を象徴する印象的な背景となっている。
シーズン1で確立されたルックを踏襲しながら、DNEGは『The Last of Us』シーズン2において、幅広いテクスチャリングおよびコンポジット作業を手がけた。今シーズンでは、海沿いの込み入った都市ロケーションが登場し、制作面においても新たな課題に直面することとなった。
本記事では、DNEGのCGスーパーバイザーである Nitin Prakash Vade 氏へのインタビューを通して、崩壊後のシアトルの都市景観やウォーターフロントに漂う朽ちた雰囲気を表現するために、チームが Mari をどのように活用し、リアルなテクスチャを描き上げていったのかを紹介する。

荒廃したシアトルを描く
『The Last of Us』シーズン2は、シーズン1の出来事から5年後を舞台に、エリーと仲間たちが、宿敵アビーと彼女が属するワシントン解放戦線(WLF)への復讐を果たすためにシアトルへ向かう物語である。シリーズ全体のルックは前シーズン同様、自然に覆われた荒廃した景観を基調としているが、本作では複数の対立する勢力同士の衝突が、物語の重要な要素として描かれている。

WLFの兵士たちと、過激な宗教集団であるセラファイトとの敵対関係を表現するため、制作チームは実際の写真資料を参照し、街路には銃痕や血痕を加えた。さらに、感染者と建物との関わりを反映した汚れや痕跡を施すことで、街全体にリアリティを与えている。
DNEGは、群衆キャラクターやWLF兵士をはじめ、シアトルの通りに並ぶ30台ほどの損壊した車両とそのバリエーションなど、幅広いアセット制作を担当した。中でも重要な要素となったのが、長年の風雨にさらされ、劣化した建物群である。25棟に及ぶ手描きによる主要な建物アセットに加え、背景用のローポリゴン版、さらにリファレンスをもとに制作された5棟のハイポリアセットが用意された。加えて、Mariのプロシージャルワークフローを活用し、奥行きのある背景用の建物も数多く制作されている。


Mariで都市景観を構築する
『The Last of Us』シーズン1の制作経験を持つDNEGは、すでにプロシージャルテクスチャのライブラリを構築しており、それを基盤としてスムーズに作業を進めることができた。1棟の建物で作成したマテリアルをアセットライブラリに保存し、複数のアセットへ展開することで、アーティストは効率的に制作を進めることができたという。背景に配置される主要な建物については、さらに汚れ表現や手描きによるテクスチャを加え、より作り込んだ表現が求められた。
「損傷した背景用の建物には、曲率マップやキャビティマップの生成にMariを活用しました」とVade氏は語る。「特に、角やくぼみといった細部の表現に欠かせないアンビエントオクルージョンを用いたマスク生成において、Mariは非常に有用でした。これらのマスクは、苔や汚れのベースとなるテクスチャを構築するうえで重要な役割を果たし、さらに手描きのマップと組み合わせることで、垂れ下がるツタを作り込むのに欠かせないものとなりました」。


廃墟劇場のテクスチャリング
本作に登場する主要な建物の一部には、撮影現場で収集された実写リファレンスが用意されていた。エリーとディーナが身を寄せる廃墟の劇場を再現するにあたり、制作チームはフォトグラメトリを用いて複数の2Dリファレンスショットをつなぎ合わせ、ジオメトリへテクスチャを投影していった。


「フォトグラメトリに欠けている箇所がある場合は、Triplanarマッピングを使って継ぎ目のないテクスチャを生成し、書き出していました」とVade氏は語る。「それによってベースとなるアルベドマップを作成し、そこに汚れや壁面の損傷、塗装の剥がれ、欠けたレンガなどを手描きで加えていきました」。
さらにVade氏は次のように続ける。「フォトグラメトリ画像にテクスチャを追加したり、不足部分を補うなど、画像を拡張する作業では、Mariはアーティストが特に頼りにしているツールです」。


最終話のリアリティを作り込む
シーズン最終話でVade氏が特に印象に残ったアセットは、実在する「シアトル水族館」だった。リアリズムを追求するため、VFXスーパーバイザーは現地へ向かうフェリーで撮影したリファレンスショットをチームに共有し、エリーのボートでの移動ルートを具体的に把握できるようにしたという。
Vade氏は「水族館は、できる限りフォトリアルに仕上げたかった」と語る。「課題は、傷みや破損を自然に表現することでした。長年にわたって海水にさらされることで、どのように風化や浸食が進むのかまで考える必要がありました」。


制作チームはMariでラフネスマップやさまざまなマスクを活用し、海水が流れ込んだと想定されるドックでは、破損や浸食が進んだ質感を作り込んだ。さらにノイズを加えたスペキュラマップを用いて凹部を作成し、汚れが蓄積した箇所を表現した。レイヤーテクスチャで浸食を重ね、前景の金属には汚れや錆を手描きで描き込み、ウェットマップによって、雨や海水で濡れた建物の湿った質感を表現した。
このシーンは、背景で発生する雷雨によってさらに難易度が増した。Vade氏は次のように説明する。「背景に点在する建物のスペキュラ強度は、雷の閃光に対してウェットマップが正しく反応し、シーン全体のライティングと整合する必要がありました。ライティングはまた、ラフネスやマテリアルごとの質感の違いを浮かび上がらせるうえでも重要で、その表現を支えたのが、ライティングとコンポジットで使用したSpecular AOVでした」。


Bakeryで効率化を加速
DNEGが手がけた中でも特に難易度が高かったシークエンスの一つが、シーズン最終話でエリーとジェシーが高層ビルの屋上から街とウォーターフロントを見渡す場面である。3つの異なる視点で構成された全29ショットには200棟以上の建物が映り込み(各ビューで最大80棟が視界に入る)、さらに水族館やフルCGの観覧車といった主要アセットも登場する。

Vade氏は次のように語る。「背景の建物にはプロシージャルテクスチャを使用し、2Kや4Kだった解像度を512や1Kまで落として、各建物バリエーションのUDIM数を抑えました。その結果、3台のカメラ分の出力をつなぎ合わせることができました。もしMariのプロシージャルテクスチャリングで建物アセットを最適化していなければ、このシーンのレンダリングはもっと難しかったはずです。UDIM数を抑えたアセットでもディテールを補うためにMariで複数のレイヤーを追加し、プロシージャルフラクタルなどを使ってテクスチャに不均一さを与えました」。


さらに効率化を図るため、チームはアセットを個別にベイクし、8〜9枚あったテクスチャを3〜4枚にまで削減して、レンダリングの効率化を実現した。
Mariのテクスチャベイクエンジン「Bakery」はMari 7.0で導入された機能で、高解像度ジオメトリのディテールを、低解像度のアセットに適したテクスチャマップへ転写することができる。
「現在進行中のプロジェクトでも、MariのBakeryを活用する予定です」とVade氏は話す。


劣化表現が物語に与える力
『The Last of Us』では、劣化や損傷といった表現が物語を伝えるうえで非常に重要な要素だ。では、なぜアーティストは汚れや錆などの“劣化表現”を描くことをこれほど好むのだろうか。
Vade氏は次のように語る。「アーティストにとって、汚れや錆を描き込む工程は腕の見せどころで、思わず熱が入ります。思った通りにペイントできますし、フォトリアルなマップも投影しやすい。だからこそ、サーフェスに個性や“積み重ねられた時間”が生まれます」。


その理由について、同氏はこう続ける。「自分が手がけたものが、本当に“現実にありそうだ”と思える仕上がりになると、嬉しいんですよね。現実の世界では、物は決してきれいなままではありません。汚れや擦れといった痕跡や、さまざまな不完全さがあって、経験の浅いアーティストはそうした点を見落としてしまうこともあります。経験を積むほど、そうしたディテールが自然と目に入るようになるのです」。
「そして多くの場合、やりすぎないことが大切です。私たちはアセットの魅力をしっかり伝えつつも、“盛りすぎない”ようにしています。重要なのは、すべてが現実らしく自然に馴染んでいること。私にとってMariは、ペイントを楽しい作業にしてくれるだけでなく、VFXスーパーバイザーや監督が思い描くビジョンを支えるフォトリアルなサーフェスを再現するためのツールです。その結果、ストーリーをより効果的に見せることができます」。
DNEGによる『The Last of Us』シーズン2のVFXブレイクダウンはこちら:
Mariの最新バージョンで、制作をもっとスムーズに。Mari 7.5の新機能をチェック。

