DNEGによる、Nukeを駆使したコンポジット制作
HBOのドラマ『The Last of Us』は、文明崩壊後の世界を舞台に、荒廃と自然の浸食が進んだディストピア的な風景を印象的に描いてきた。シーズン2でDNEGは、オリジナルのビジュアルスタイルを継承しつつ、ショットのスケールと複雑さをさらに高めるVFXに挑んだ。特に、水や激しい雨といった新たな環境要素への対応は、大きな課題となった。
そこで本稿では、DNEGのコンポジット・スーパーバイザー Francesco Dell'Anna氏に話を聞き、Nukeがシーズン2制作の難局をどう支えたのかに迫る。
監督のビジョンを読み解く
DNEGのコンポジットチームは、『The Last of Us』シーズン2最終話で新たに加わった水表現という難題に挑んだ。主人公エリーが雷雨の中で小型ボートを操り、巨大な波にのまれて敵地の浜へ打ち上げられる一連のシークエンスには、重い水表現を伴うショットやフルCGショットが多数含まれる。制作のピーク時には、複数拠点で約20名のコンポジットアーティストが携わった。

2Dチームにとって最大の課題のひとつは、監督の意図を正確に汲み取り、それを画として成立させることだった。求められたのは、暗くムードのあるルックと、視聴者がアクションを追える視認性を両立させること。その“紙一重”のバランスを見極める必要があった。
「監督は、月のない夜空の下で全体を徹底的に暗くしたかったんです。でも同時に、観客がアクションを見失わないことも条件でした」とDell’Anna氏は説明する。「狙いは、撮影監督のライトが画面の外に置かれているように感じてもらうことでした。だから物理的に正しいライティングに厳密に合わせるというより、嵐がドラマチックで脅威に満ちたものとして伝わりつつ、フレームの中でエリーがちゃんと追えるように、画を作っていったんです」。


「スプレーや水しぶきのパスをグレーディングでうまくコントロールすると、俳優のシルエットが浮かび上がって形を強調できることが分かりました。そのおかげで、暗い画の中でも観客が動きを追える“見やすさ”を保てたのです」。

シーズン最終話:ボートシーンのコンポジット
ボートそのものは実物の小道具であり、ジンバル上で撮影した映像と、水槽で撮影した映像の両方が用いられた。シークエンスが進むにつれて嵐は激しさを増し、エリーの切迫感が高まるのに合わせて、CG/FXもジンバル撮影と水槽撮影の実写リファレンスと整合するよう緻密に作り込まれている。


「ジンバル撮影と違って、水槽での撮影では実際に水があるぶん、“水がボートにどう当たって、どう動くべきか”という基準が最初から見えていました」とDell’Anna氏は語る。「ボートの周囲はすべてCGで作成し、それをエリーのボートの周りにある実写の水となじむように合成する必要がありました」。
「水しぶきと大気表現が複雑に重なり合うレイヤーを扱ううえで、コンポジットは欠かせませんでした。そのおかげで、Nukeアーティストには大きな表現の自由度が生まれたんです。地平線や空、稲光、そして全体の雰囲気は、コンポジットで一から作るか、あるいは大幅に補強しています。つまり、役者の周囲にある環境そのものを、コンポジットで実質的に作り直していたわけです」。

2Dアーティストの表現の自由度を広げる
チームは、CGパスの完成度を高めるためにNukeの3Dシステムを積極的に活用した。ボート周辺の環境用にシンプルなジオメトリを構築し、そこに空や嵐の要素をプロジェクションすることで、リアルな視差効果とカメラワークを実現している。さらに、飛沫や雨のシート、霧といった2Dエフェクトカードを3D空間内に配置し、ライティングや奥行き情報と正しく相互作用するよう設計した。

「これによって、レンダリングに何度も戻ることなく、コンポジターの表現の自由度が拡大しました」とDell’Anna氏は語る。「ショットに2Dによる微調整が必要な場面では、すぐに使える2Dエレメントが用意されており、それを使って表現を引き上げることができたのです」。
このシークエンスは、コンポジターにとって非常にやりがいのある作業だったという。複数のパスを素早く切り替えながら反復検証し、さまざまなバリエーションを即座に提示できる環境の中で、NukeXは単なるパスの組み上げにとどまらず、ショットのムードやルックを主体的に作り込む柔軟性をもたらした。

また、ボート周囲の水しぶき表現を補強するため目的で、Nukeのパーティクルシステムも使用された。加えて、追加の深度情報を用いて、アーティファクトを抑えつつ高品質な画づくりを可能にするNukeのディープコンポジットも、本作全体を通して広く活用されている。
「Nukeのディープコンポジットの扱いは本当に完成度が高く、これなしでどうやって作業していたのか想像できません」とDell’Anna氏は語っている。
ボートシーンにおける雷雨表現
ボートシーンにおけるもうひとつの大きな課題が、稲妻が断続的にショットを照らす雷雨の表現だった。チームはこれをコンポジットで構築し、撮影現場で収録されたフラッシュ映像や、実在の稲妻映像を使用。そこに大量のFXをレイヤーとして重ねることで、嵐の激しさを強調し、ショット全体を暗く、危険で、没入感のあるものへと仕上げていった。

「今回は実写素材を使っていたので、撮影現場で入ったフラッシュの光に合わせて、稲妻のタイミングを正確に合わせる必要がありました」とDell’Anna氏は語る。「多少の調整やリタイミングは必要でしたが、シークエンスを進めていくうちに、作業は次第にスムーズになっていきました」。
ワークフローは大きく2段階に分かれていたという。「まず、現場のフラッシュに合わせて稲妻のコンポジットを作成します。それがVFXスーパーバイザーのレビューを経て承認された後、稲妻を含んだ空のプリコンプを作成し、それを使って、CGの大気表現やCG環境全体に、一貫したライティングを施しました」。

CopyCatを活用した制作効率の向上
DNEGのチームは、シリーズの比較的初期のエピソードにおいて、Nukeの機械学習ツールセットであるCopyCatも活用した。CopyCatはスタジオが保有する独自のソースマテリアルを用いて学習させることができるため、出力結果の信頼性が高く、著作権上の問題が生じない点も大きな利点となっている。
CopyCatが使われたシーンのひとつが、エリーとディーナが荒れたレコードショップに身を寄せる場面だ。撮影現場では、多くの花や植物がセット装飾として配置されていた。しかし、その中にはサイズが大きすぎるものもあり、キャラクターから視線を奪ってしまっていた。そのため、クライアントから修正の要望が出された。


「この作業を従来の方法で行っていたら、準備だけでも多くの時間とコストがかかっていたでしょう」とDell’Anna氏は語る。「カメラがシーン内を動くことで、花と周囲の植物の動きに大きなズレ(視差)が生じ、対応が非常に難しかったはずです」。
そこでチームは、CopyCatを使って問題となっていた花の色をシーン全体でピンクからグリーンへと変更し、周囲の植生になじませる手法を選択した。CopyCatモデルの学習に要した時間は約2日間で、従来の手法であれば1ショット分の下準備だけでも約1週間を要していたという。
「結果は想像以上で、非常に満足しています」とDell’Anna氏は振り返る。「CopyCatを今後の制作にどう活かせるのかを実感できた、非常に良い経験でした」。
DNEGによる『The Last of Us』シーズン2のVFXブレイクダウンはこちら:
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DNEGのテクスチャリングチームによる、Mariを活用した『The Last of Us』シーズン2「終末世界のシアトル」の制作事例はこちら 。

