チョクトー族創世神話 マーベルTV『エコー』のテクスチャリング

Marvel Studios

強い文化的・神話的ルーツを表現

デジタル・ドメインはこれまで、『X-Men』では自由の女神のクライマックスシーン、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ではニューヨークの再現、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では悪役サノスをスクリーンに登場させるなど、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の数々のプロジェクトに携わり、重要な貢献を果たしてきた。

しかし、文化的、神話的なルーツが強いマーベルのドラマシリーズ『エコー』のCGテクスチャリングにはある課題が生じた。デジタル・ドメインのテクスチャショースーパーバイザー、Nick Cosmi氏は次のように話す。「この番組では、MCUで初めて登場する聴覚障害を持つ先住民のヒーロー、マヤ・ロペスを中心にストーリが展開します。私たちは、スクリーンでほとんど描かれることのないコミュニティを正確に描写する必要がありました」。

第1話のオープニングシーンのテクスチャリングについて、デジタル・ドメインがどのようにMariを活用したのかCosmi氏に話を聞いた。

Choctaw ancestor Chafa in Marvel TV's Echo

チャファの誕生

チョクトー族の代表者たちとの緊密な協力のもとで作られた『エコー』のオープニングシーンでは、チョクトー族の初代先祖であるチャファの物語が描かれている。このシーンでは、他のチョクトー族の先祖たちとともに地下の洞窟の水場から現れたチャファが、洞窟を崩壊させる地震から先祖たちを助け出す。その後、彼らはアメリカにたどり着き、粘土の皮を脱ぎ捨てて人間の姿を現す。

デジタル・ドメインはプロジェクトの初期段階から関わり、シーンのルックに至るまでプリプロダクションをサポートした。このシーンでは、水場を囲むセットで特殊メイクを施した実際の俳優を使って撮影されたが、崩壊の規模やキャラクターのエフェクトを完全に視覚化するために、実際のセットと俳優を3D環境とデジタルダブルに置き換える必要があった。

Chafa and other Choctaw ancestors emerging from a pool of water in an underground cave

最初のステップでは、Clear Angle Studiosと協力してLiDARスキャンを作成し、これを3D再構築のためのベースとして使用。その後、スキャンで得た俳優の形状データに、Mariを使ってテクスチャを合わせ、3Dのデジタルダブルを作成した。「私たちのスタジオでは、デジタルヒューマンの制作にMariを長年使用しており、テクスチャペイントソフトウェアとして信頼を置いています」とCosmi氏は言う。「キャラクター作業では、対象とテクスチャを正確に合わせるための精度が求められます。Mariは、このプロセスをスムースに進めるためのツールを提供してくれます」。

フォトプロジェクションを用いたテクスチャ制作

テクスチャを作成する際、デジタル・ドメインチームは、スキャンした画像を完全に一致させるためにフォトプロジェクションを使用した。特に、水場からチャファが現れるシーンでは、実写プレートとCGキャラクターを違和感なく自然に融合させる必要があり、これが非常に重要だった。

チームはまず、汎用のヒューマンメッシュをClear Angleのスキャンジオメトリにラッピングすることから作業を始め、その後、カメラのレイアウトや俳優の高解像度写真など、Clear Angleから提供されたアセットを活用した。「モデリング工程では、顔や体の主要なマークを確認し、カメラのイメージプレーンがスキャンされたメッシュだけでなく、ラッピングされたメッシュとも正確に一致するようにしました」とCosmi氏は説明する。「また、Nukeを使って利用可能な高解像度写真をすべて収集し、STmapを適用して歪みを補正。その後、必要に応じて色補正を行いました」。

Choctaw ancestor Chafa in Marvel TV's Echo

歪みのない色補正を施した画像が完成すると、それらはカメラのレイアウトとともにMariに取り込まれた。Mariを使用すれば、画像の比率を固定したまま高品質なテクスチャをキャラクターモデルに再投影することができる。『エコー』の制作では、特に高品質な仕上がりが求められた。Mariではスキャンしたジオメトリからスタジオ用メッシュに直接マップを転送できるが、デジタル・ドメインのアーティストたちは、提供されたアルベドマップの解像度では制作のクオリティ基準を満たせないと判断した。しかしこの問題は、フォトプロジェクションを活用することで簡単に解決することができた。

「業界全体において、プロシージャルテクスチャやマテリアルへの移行が進んでいますが、デジタル・ドメインでは、1:1のテクスチャを再現する際、特にキャラクタに関しては、フォトプロジェクションが依然として最も重要なワークフローです」とCosmi氏は説明する。「私はNukeとMariを行ったり来たりしながら、どの画像がアセット全体をカバーするのに最適かを見極めます。そして、カラーや値を確認し、写真とカメラの名前を統一していけば、キャラクター全身をカバーするディフューズパスを1日で作成することが可能です」。

Mari活用のメリット

Mariには、アーティストが1:1のテクスチャを迅速に作成できるだけでなく、デジタル・ドメインのチームにとって、スキャンの問題箇所を修正しやすくなるなど、さまざまなメリットがあった。「キャラクタースキャンでは、まぶたや鼻孔、あごの下など、細部が欠損することがよくあります」とCosmi氏は言う。「例えば唇の内側の修正の方が、体の他の部分よりも時間を要するのです」。

MariのPaint Throughツールは、これらの問題箇所の修正に役立った。『エコー』の制作ではこのツールと写真からの得られるディテールを利用してデジタルダブルを仕上げた。また、Towbrushを使用して作業をさらに細かく調整し、完璧なテクスチャを作り上げるとともに、義肢と俳優の肌が違和感なくつながるように、境目をなじませて滑らかに仕上げた。

Nick Cosmi, Texture Show Supervisor, Digital Domain: “Character work requires precision to match textures to real-life subjects. Mari provides us with tools that make this process easy.”

Cosmi氏の作業に不可欠だったもう一つのMariの機能が、Source Gradeだ。これにより、それぞれ異なるライティング条件で必要なカラーを正確に再現できない写真でも、キャラクターに適切なテクスチャを施すことができたという。「Source Gradeを使うと、プロジェクション中にペイントバッファ上で画像のカラーを微調整したり補正することができます。この機能のおかげで、他のソフトで調整する手間を省け、作業時間を大幅に節約できました。ペイント中にその場で微調整ができるので、効率が格段に上がります。さらに、どんな画像でも瞬時にモノクロに変換して、輝度情報をマスクに描き込むこともできます」。

デジタル・ドメインのチームは、Mariのノードグラフに完全に移行したことで、従来のレイヤースタックでは実現できなかったペイントオプションを活用できるようになり、すべてのアセットに共通のセットアップやテンプレートを使い回すことができるようになるなど、アーティストたちはより効率的に作業できるようになった。Cosmi氏は、「完璧なレシピを作るように、何度でも繰り返し使い続けることができます」と話す。「また、実際の写真から得た情報をもとに、物理ベースのレンダリングに対応したマテリアルを多数作成しました。これにより、部門全体でより一貫性のある結果が得られるようになり、ルックデブに渡す際にも、以前より自信を持てるようになりました」。

クリエイティビティの追及

『エコー』のオープニングシーン制作で、デジタル・ドメインのテクスチャアーティストたちは、それぞれ男性と女性の超高精度デジタルダブル、それからクレイバージョンを作成し、合計4つのキャラクターアセットを完成させた。制作には多くのMariツールが活躍したが、Cosmi氏は成功の鍵が特定のツールにあるわけではないと指摘する。むしろ、Mariがアーティストに対して、伝統的なアート技法を直感的かつ効果的に活用できる環境を提供したことが、プロジェクトの成功を支えたという。

これは特に、『エコー』のオープニングシーンで直面した大きな課題を解決する上で役立った。チャファが手首を回転させて手のひらを天井に向けるポーズを取る場面で、最初に作成したチャファの手首と手のタトゥーのテクスチャが大きく歪んでしまう問題が発生し、シーンごとのポーズに合わせてカスタマイズする必要が生じたのだ。しかし、Mariを活用することで、タトゥーをよりクリーンなテクスチャで再作成し、マッチムーブを用いたショットでも細部を正確に維持することができた。

Details on wrist of Choctaw ancestor Chafa in Marvel TV's Echo

「最初に作成したテクスチャは、俳優のメイクをできるだけ忠実に再現したものです」とCosmi氏は話す。「その後、コンセプトアートのレイアウトに合わせるために、いくつかのアイソレーションマスクを追加しました。これは単なる技術的な作業ではなく、非常にアート的なプロセスでした。手作業による正確なペイントが求められ、シンプルなブラシを使う方法から、アルファやPaint Throughの活用、SlerpツールやGrid Warpでマスクの位置を微調整するなど、さまざまなアプローチを試しました」。

Cosmi氏は次のように締めくくる。「どのようなアプローチを選ぶにせよ、重要なのはクリエイティビティを妨げないことです。デジタル・ドメインのアーティストは、写真を観察して細部まで忠実に再現し、現実の世界にのみ存在する独自で自然な配置やバランス、つまり現実に存在するものの魅力や美しさを作品に反映させることを大切にしています。伝統的な画家でありイラストレーターとして、私はアセットに取り組む際、できるだけ手作業でペイントを行いたいと考えています。プロシージャルなアプローチは、往々にしてランダムで運任せになりがちだからです。しかし、Mariの実績あるペインティングアプローチとツールセットのおかげで、私のようなアーティストもワークフローを効率的に保ちながら、テクスチャに命を吹き込むことができるのです」。

この記事はもともと、befores & aftersに掲載されたものです。

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