『Win or Lose』 ピクサー初の連続アニメーション作品におけるライティング

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ピクサーはいかにして各エピソードごとの独自表現を作り上げたのか

『Win or Lose』は、ピクサー・アニメーション・スタジオにとって初となるエピソード形式のシリーズ作品であり、各エピソードはそれぞれ独自のビジュアルスタイルで描かれている。全8話からなるこのアニメーションは、「Pickles」と呼ばれる男女混合の中学校ソフトボールチームを舞台に、同じ出来事を各エピソードごとに異なるキャラクターの視点から描く構成となっている。

ピクサー・アニメーション・スタジオのシニア・ライティング・アーティストであるChristos Tzeremes氏は、このマルチエピソードプロジェクトで求められた新たな制作アプローチを支えるために、スタジオがどのようにKatanaを活用したのかを語ってくれた。

Softball player in still from Pixar's Win or Lose

エピソード形式のアニメーションとスケールへの対応

『Win or Lose』はエピソード形式という特性上、ショット数は一般的な長編アニメーション作品よりもはるかに多く、特に少人数のチームにとっては大きな課題となった。そのため、制作当初から戦略的なアプローチが求められ、スケジュールを維持するうえではレンダリングスピードの向上が特に重要な鍵となった。マテリアルの簡略化やシェーダーの再検討、ファーの最適化に加え、画面上では認識されにくい不要なディテールを削減するなど、制作全体にわたるアプローチを見直した。

Characters across different episodes of Pixar's Win or Lose

「私たちはKatanaの強みを最大限に活かしました」とChristos氏は語る。「ライティングテンプレート、ディファードローディング、そしてマルチショットワークフローによって制作プロセスを効率化し、さまざまな作業を再利用できるように工夫しました。その結果、ビジュアルクオリティを犠牲にすることなく、膨大なショット数を管理することができました」。

「Katanaによって、ライティング設定が複雑であっても、複数のエピソード間で簡単に共有してアップデートできたり、シーンを並行してライティングし、ライトリグを再利用しながら非破壊で個々のショットに大きな変更を加えることも可能でした。その結果、ライティングアーティストは、それぞれの瞬間のムードや感情表現に集中することができたのです」。

『Win or Lose』のライティング:統一感のあるルックを作り上げる

『Win or Lose』におけるもう一つの課題は、シリーズ全体としてライティングの統一感を保ちながら、各エピソードに明確な個性を与えることであった。孤独な子どもの鮮やかな想像世界から、感情が揺らぐ十代の内面世界まで、それぞれのエピソードの視点に応じてアートディレクションが設定されている。ライティングチームは、各ストーリーの感情的なゴールを理解するため、ディレクターやアートチームと連携し、アイディアをライティングで具現化することで物語表現を支えた。

Still from Pixar's Win or Lose

「私たちの大きな強みの一つは、非常に効率的なレンダリングパイプラインを構築できたことです」とChristos氏は話す。「それによって何度も試行錯誤を重ね、早い段階から成果を共有することができました。そして何よりアートディレクションと方向性を一致させながらも、さまざまな表現を探ることができたのです」。

Anime style animation in Pixar's Win or Lose

複雑なショット構築

特に複雑なシーンでは、チームのキャッチャーであるRochelleが、自宅のキッチンテーブルと“オフィス"代わりの学校のトイレの個室という二つの空間を、1つのショットの中で行き来する。それぞれの背景が構築され、ライティングが施されたうえで、1台のカメラによるシームレスな切り替えが、オンカメラで何度も行われた。

Rochelle's bathroom office in Pixar's Win or Lose
Rochelle working in Pixar's Win or Lose

「私たちはKatanaのLiveGroupsを使い、それぞれのセットを独立したモジュールユニットとして管理しました。各セットに個別のライティング、オーバーライド、ロジックを持たせていたのです」とChristos氏は語る。「そのおかげで、ショット全体を維持したまま、それぞれの空間を個別に試行錯誤することができました。レイアウトやアセット、あるいはライティング調整など、どのような変更が入っても、一方だけをアップデートし、もう一方に影響を与えずに対応できました。本来なら非常に複雑になりがちなショットですが、管理しやすく、ワークフローをクリーンかつ効率的に保つことに成功しました」。

アーティストがよりクリエイティブになれる環境

効率的なワークフローは、『Win or Lose』の成功において極めて重要な役割を果たし、アーティストがショット制作に十分なクリエイティビティを注ぐための時間を確保することにつながった。たとえば、異なる時間帯で何度も登場するセットについては、KatanaのVariableSetを使用し、朝・昼・夕方・夜それぞれのライティングをあらかじめ用意した。これにより、ライティングアーティストは適切なプリセットを選択するだけで作業を開始でき、毎回ゼロからセットアップを構築する必要がなく、ムードやストーリーテリング、キャラクターライティングにすぐ集中できるようになった。

 

Softball umpire Frank in Pixar's Win or Lose
Softball umpire Frank in Pixar's Win or Lose

「KatanaのVariableSetによって、一貫性を保ちながらも、その瞬間に求められる感情表現に応じてライティングを柔軟に作り込むことができました」とChristos氏は語る。「ショット数が多く、コンテキストの切り替えも多い本作において、これは大幅な時間短縮につながりました」。

またピクサーは、複数のショットを個別に読み込むのではなく、シークエンス全体を統一されたライティングで処理するために、KatanaのLiveGroupsを活用した。Christos氏は次のように説明している。「LiveGroupsは、ビジュアルの連続性を保つことが特に重要となる複雑なシークエンスの管理において非常に役立ちました。ショットを個別にライティングする場合と比べて、大幅な時間短縮につながりました」。

Quote from Christos Tzeremes, Senior Lighting Artist, Pixar Animation Studios: “VariableSet enabled us to maintain consistency, while still giving artists the flexibility to shape the lighting based on the emotional needs of the moment.”

『Win or Lose』における複雑さの管理

複数のエピソードにわたって多様なビジュアル表現が求められる本作では、プロジェクトの複雑さをいかに効率的に扱うかが極めて重要であった。

「Katanaのディファードローディングは効率化のカギとなりました」とChristos氏は語る。「重いジオメトリをシーンに読み込むことなく作業できるので、密度の高いセットや複雑な環境を扱う場合でも読み込み時間は短く、作業中のストレスを最小限の抑えることができました」。

また、Interactive Render Filtersを活用し、必要最小限のエレメントのみを処理するよう制限することで、プレビューレンダリングによる確認作業をさらに効率化することができた。

Rochelle on smarphone screen in Pixar's Win or Lose

KatanaのUSD対応もまた、本作の複雑さとスケールを管理するうえで重要な役割を果たした。アセットをフレキシブルかつレイヤー構造で整理できるようになり、レイアウトやアニメーションの更新といった他部署からのアップデートを、ライティング作業を中断することなく取り込むことができた。

「アセットはモジュール単位で構成されていたため、Katana上で個々のエレメントを簡単に差し替えたり調整したりすることができ、シーン全体に影響を及ぼすことはありませんでした。その結果、コラボレーション作業はよりスムーズになり、テンポの速い制作進行の中でも、急な変更にも柔軟に対応できる、効率的なライティングパイプラインを維持することができました」とChristos氏は説明する。

Rochelle in digital form in Pixar's Win or Lose

Nukeでディテールを加える

『Win or Lose』ではNukeスクリプトギズモを用いて、複数のショットにわたり一貫したコンポジット調整を行った。アーティストは画作りやルックの調整を直ぐに試すことができ、カラーやライティングエフェクト、デプスなど検証したうえで、ライティングパイプラインへ変更を反映するかどうか判断することができた。

Softball player closeup in Pixar's Win or Lose

Nukeは、フォグやフィルムグレインなどの表現を加えるためにも活用された。これらは、実際にレンダリングで再現しようとすると、非常に時間がかかるエフェクトだ。

「こうしたエフェクトをNukeに任せることで、最終的な画により豊かで繊細なニュアンスを与えつつ、レンダリング時間を現実的な範囲に抑えることができました」 とChristos氏は語る。「さらに、制作終盤に入ってからの急な修正要求にも、ショットをリライティングすることなく効率的に対応でき、大幅な時間短縮につながりました」。

Coach spraying a hose in evening light from Pixar's Win or Lose

ピクサー初のエピソード作品

ピクサー初のエピソード形式アニメーションである『Win or Lose』では、長編アニメーション作品とはまったく異なる制作アプローチが求められた。長編作品では、アーティストが個々のシーンを何週間もかけて磨き上げていくのに対し、本作ではエピソード全体を通したルックを意識しながら、スピーディに制作を進める必要があった。

「そのためには、強固なテンプレートを構築し、よりシステマチックなライティングソリューションに頼り、ツールに“重たい処理”を任せることが重要でした」とChristos氏は話す。「Katanaは、エピソード制作に合わせたアプローチの変化によく適応してくれました。ソフトウェアの持つモジュール性と柔軟性のおかげで、タイトなスケジュールの中でも、クリエイティビティを犠牲にすることなく作品を仕上げることができました」。

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