『イカゲーム』制作の舞台裏

Image courtesy of Netflix

Gulliver Studios: Nukeを活用したVFX制作

2021年9月、世界中を釘付けにした『イカゲーム』。全くの好奇心からにせよ、あるいは衝撃的なストーリーに引き込まれたからにせよ、誰もが固唾を呑んで、生き残りをかけた命がけのサバイバルゲームを見守った。

この壮大な韓国ドラマは、Netflixのオリジナル作品の中で最も成功した作品の1つとなったわけだが、そのVFX制作に細心の注意が払われたのは言うまでもない。このプロジェクトを担ったのは、アメリカから中国まで、世界中のアーティストが集結するコラボレーションスタジオ Gulliver Studios。そこで重要な役割を果たしたのがNukeだ。

Staircase Squid Game

Gulliver StudiosのコンポジットスーパーバイザーであるSeok Jong-yeon氏は、次のように話す。「すべてのコンポジット作業をNukeで行いました。『イカゲーム』は4Kのプロジェクトなので、負荷のかかる作業になると思っていましたが、Nukeのおかげで容易に対処することができ、大きな問題なく作業を進めることができました」。

Gulliver Studiosの制作チームに、この話題のプロジェクトへの取り組みとNukeの活用について話を聞いた。

課題への取り組み

子供向けのゲームを連想させる『イカゲーム』のカラフルでポップな撮影セットは、観る者をデスゲームに完全に引き込む効果をもたらしている。印象的なセットとデジタル映像を組み合わせてルックとディテールの描写を行ったが、ワイドショットの撮影で問題が生じた。

Red light, green light game

「撮影現場ではクローズアップを多用したのですが、ワイドショットになるとセットも拡張しなければならず、実際のセットとCGを自然なかたちで繋げるのに苦労しました」とJong-yeon氏は言う。「撮影時に発生する環境変数をできるだけ統一し、それに合わせてライティングを設定してコンポジットでマッチさせました」。

「一番大変だったのは、実在しない非現実的な場所をあたかも実在するかのように見せることでした。エピソードごとにコンセプトやロケーションが異なるため、コンセプトアートをもとに存在しない環境を作るのに苦労しました。例えば、ゲームの会場となる広場は実際に屋外の空き地で撮影したものですが、周囲を取り囲む壁はすべてCGで作っています。撮影しているうちに、時間の経過に伴って陰影が変化してしまい、均等に合わせるのにかなりの労力を要しました」。

こうした課題に加えて、常に大量のショットの迅速な処理対応が求められたが、Gulliver Studiosは多数のアーティストをプロジェクトに同時投入し、シークエンス間、拠点間のルックの一貫性を確保した。リードコンポジターがNukeスクリプトテンプレートを作成し、各シークエンス内のキーショットの最適なルックを作成、そのテンプレートを他のコンポジターが再利用することでコンポジットプロセスを効率化し、より迅速かつ効率的にプロジェクトを完了できるようにした。

Seong Gi-hun arcade

「キーショットにフォーカスしました」と語るのは、コンポジットテクニカルディレクターのHanguil Jung氏。「キーショットが完璧であれば、関連する他のショットを簡単に処理することができます。まず、リードコンポジターがキーショットのルックを仕上げて、それをテンプレートとして他のコンポジターに共有し、それぞれのショット制作に使用するというやり方で、高品質を維持しながら短時間で多くのショットを処理することができました」。

3D背景とガラスの橋の制作

おそらくこの作品でもっとも印象的なのは、第7話『VIPたち』で参加者たちがガラスの橋を渡るシーンだろう。Gulliver Studiosが手がけたシーンの中でも、もっとも複雑なシークエンスのひとつだ。

「巨大で奥行きのあるサーカス会場のような背景セットは、ガラスで作られた橋以外はすべて3Dで作成しています」と、コンポジットスーパーバイザーのJun Sung-man氏は語る。「また、参加者が橋から落下した際のガラス片のテクスチャにもリアルな表現が求められました。最後の巨大な爆発シーンの構築には、非常に苦労しましたね」。

Nukeの活用により、ガラスの橋のような難しいシークエンスや、膨大な3D背景の制作に取り組むことができた。

「ショット数が膨大だったため、3Dシーンをアセット化できる機能は非常に助かりました。背景すべてを3Dでレンダリングするとなると、膨大な時間が必要になります。2Dを使用して作業時間とレンダリング時間を短縮し、3Dでショットをレンダリングしなくてもシーンのセットアップが行えたのは有り難かったです」とSung-man氏は続ける。

  • Squid Game cell
  • Squid Game 001
  • Squid game VIPs

また、パイプラインやNukeの活用について試すこともできた。背景を拡張するためにショットベースの3Dレンダリングを作成する代わりに、Nukeで2.5D環境を設定して3Dのレンダリング負荷を軽減し、ショットをコンプで処理した。

エピソードコンテンツの今後

印象的な背景環境から複雑なVFXの細部に至るまで、Gulliver StudiosはNukeを使用して大量のショットと3Dの処理を行った。殺伐とした作品のテーマを、鮮やかな色彩のセットと対比させながらうまく表現している。

こうした作品がストリーミング配信されるようになったのだから、エピソードコンテンツの勢いが増しているのは確かで、今後数年はさらなる拡大が見込まれるだろう。今後ますます期待が膨らむ。

『イカゲーム』は Netflix で視聴できます。

 

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