アーティスト スポットライト: David Hirst

20年以上の経験を持つメディア制作のプロフェッショナル

テクニカルイラストレーションの学位を取得し、イラストレーションのバックグラウンドを経てクリエイティブな才能に磨きをかけたHirst氏は、多くのスタジオでビデオゲームや映像制作など数々のプロジェクトを手がけ、ユニークかつ幅広いキャリアを実現しています。

15年ほど前からVFX業界でライティング/ルックデベロップメントに特化した活動を行っており、MPCバンクーバーでライティングチームのリーダーとして、30近くのプロジェクトでライティングアーティストの採用やトレーニング業務に従事しました。1年ほど前にイギリスに戻り、ロンドンのオフィスでCGスーパーバイザーとしてさまざまなプロジェクトに携わっています。

「MPCバンクーバーで手がけた作品の中でも代表作と言えるのが、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』や『名探偵ピカチュウ』です。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』では、貨物船ツィムツーム号が暴風雨の中沈没するシークエンスを担当しました。ライティングチームのリーダーとして関わった作品の中でも、この作品は技術的にもっとも難しいプロジェクトの一つでした。リアルで信憑性の高い映像とそれをレンダリング可能にするためには芸術的にも技術的にもあらゆるチーム間での創意工夫が必要でした。」とHirst氏は話します。

CGスーパーバイザーを務めた『名探偵ピカチュウ』では、この作品特有の課題があったといいます。きわめて象徴的で人気の高いキャラクターの3D化は、決して簡単なことではありませんでした。

「多くの才能が集結し、非常に完成度の高い作品を作り上げることができたと思っています。」とHirst氏。「アセット開発チームとの密な連携により実現した、リアルでありながらコミックで描かれているピカチュウに忠実なルックの表現は、個人的に最も自信を持っているところです。」

 

進行中のプロジェクトにおける新しいテクノロジーの導入、そしてこれからのルックデベロップメントとライティングについて、Hirst氏に話を聞きました。

Q:  VFX業界、特にルックデベロップメント/ライティングにおける経験の中で、これまでどのような技術トレンドを実際に目にし、またそうしたトレンドはご自身のプロジェクトにどのような影響を及ぼしましたか。

A: この10年間での最大の変化は物理ベースレンダリング技術の進化でしょう。この技術によって、物理ベースのエリアライトやイメージベースのライティング、エネルギー保存を使用したシェーディング等が実現し、パストレーシングが広く普及しました。

それ以前のライティングやシェーディングでは、シャドウマップやオクルージョンベイク、カラーブリードなどの処理ステップを伴う複雑なプリパスセットアップが必要で、こうした方法は複雑で柔軟性に乏しく後から変更を加えるのが困難でした。MPCではPixarとの協働により物理的に正確なレンダリングソリューションへ移行した結果、それまでのような制限はなくなりライティングとルックデベロップメントの複雑さは大幅に軽減され、アーティストは迅速に変更を確認しインタラクティブに作業できるようになりました。こうした技術の進化によって、それまで成し得なかったリアルな表現を実現できるようになったのです。

メインのライティング/ルックデブツールとしてKatanaを導入したのもちょうど同じ頃でした。Katanaの採用によってルックデブ/ライティングのプロセスは完全にプロシージャル化し、そのキーテクノロジーはワークフローに大きな変革をもたらしました。シーングラフ上流で定義されたシェーダーやライトは、下流のシークエンスやショットレベルでの編集が行えます。ディファードローディングによりシーンを任意のタイミングで読み込ませることができるため、以前は不可能だった巨大なデータセットの処理も可能です。またパワフルなリファレンスツールセットのLiveGroupを使用すれば、フレキシブルなワークフローを構築しプロジェクトチーム内でのスムースなコラボレーションと作業の共有が可能となります。

Q: チームをリードする立場で、変化するそうしたトレンドにどのように対応してこられましたか。またチームはそうした変化にどのように適応してきたのでしょうか。

A: これまでのキャリアを通じて、寛大で才能あふれる多くの仲間と共に仕事ができたことを非常に幸運だと思っています。プロジェクトのチームメンバーを採用する際には、協働作業の中で力を発揮する人材と自らの経験をチームに還元できる人材のバランスをどのように取るかということに留意してきました。

アーティストやテクニカルディレクターは、結果を求めて常により良いツールや方法を探し求めています。以前はライティングアーティストに高度な技術的なバックグラウンドが必要とされ、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のようなきわめて難しい設定を要するプロジェクトのライティングアーティストの採用においても、そうした点が考慮されました。効率的なパイプラインへの移行にともない技術的な設定作業が軽減し、技術的な要件を素早く理解できるようになったことでてアーティストはよりクリエイティブな作業に集中できるようになりました。

Q: 最新のライティング/レンダリングテクノロジーについて、実世界における撮影技術と関連してどのようにお考えですか。

A: ライティングは使用するツールに大きく依存しています。以前は、セットに反射する微妙な光の加減を自然に表現するために、かなりの数のライトを要しました。テクノロジーの進歩によって、今では短時間でより現実に即したライティング表現が可能になり、アーティストはよりクリエイティブな作業に専念できますから、実世界と同様のライティング技術を用いることができます。

Quote from David Hirst

Q: Katanaのご使用について伺います。いつ、どのようなきっかけでKatanaを使い始められたのでしょうか。また他のソフトウェアと併用で使用されているのでしょうか。

A: MPCにKatanaが導入されて間もなく、テストチームのメンバーとして初めてKatanaを使用しました。その際、Katanaをそれまでのパイプラインと同じように機能させることが最大の課題だと考えていたのですが、これはKatanaの真の可能性を理解していなかったことによる大きな間違いで、その真髄を知ると大規模で複雑なシーンの処理能力の高さに驚くばかりでした。より複雑なシーンへの対応が求められるプロジェクトが増えるなか絶好のタイミングでした。

導入以来、MPCではすべてのプロジェクトでPixarのRendermanとの併用でKatanaを使用しています。FoundryとPixarの双方ともに全力で最高の製品開発に取り組んでくれ、移行作業もきわめてスムースに運びました。

Q: ルックデベロップメントに他のツールではなくKatanaを使用することに、どのような好機があると考えますか。

A: 階層構造のKatanaのツールセットには、ルックファイルのベイクやチャイルドマテリアルのワークフローなど、ルックデベロップメントの工程で求められる多くの機能が搭載されています。Katanaではマスターシェーダーでシーン設定を行い、ペアレントマテリアルを継承するチャイルドマテリアルを作成することができますが、更に編集を追加して別のマテリアルを作成することも可能です。このようにマスターマテリアルからマテリアルライブラリを作成できるだけでなく、作成したライブラリをルックファイルにベイクして、他のルックデブシーンではリファレンスして使うこともできます。

Q: ご使用中のKatanaでもっとも気に入っている点、次回のリリース、またそれ以降で期待する点について教えてください。

A: Katanaは常に、ライティング/ルックデベロップメント工程において優れた柔軟性を発揮し続けてきました。最新のバージョンでは、インタラクティブレンダリングのワークフローやネットワークマテリアルのマネージメントなど多くの改善が図られています。ファームの設定をもっと手軽に管理してローカルとクラウドの統合を強化できれば、小規模スタジオでもチェックポイントやタイムベースのレンダリング、レンダーのリカバリーといったインクリメンタルスタイルのレンダリングの利点を活かすことができるようになると思います。

Q: リリースされたKatana 4.0に搭載されている機能の中で、特に注目している機能はありますか。

A: Katana 4.0で特に目を引いた機能のひとつが、複数イメージを同時にレンダリングできるようになったことです。この機能によって、ルックデベロップメント/ライティングのワークフローが大幅に改善する可能性があります。例えば、ルックデブアーティストは幾つかのウェッジを素早くレンダリングしてシェーダーの値をテストすることができます。またライティングアーティストはシーケンス全体のキーとサブショットを同時に処理してベストなライティングアングルを素早く見つけ出し、必要に応じてサブショットに修正を加えることも可能です。

新たなライティングモードではアーティストの操作性が重視されており、Gafferノードに移動しなくてもビューポート上でライティングの調整が行えるため、クリエイティブを阻害されることなく作業が行えます。Katana 4.0で搭載されるこうした新機能では、アーティスト視点での改善が図られています。

Q: ワークフローの一部としてUSDを使用することのメリットについて、どのように考えますか。

A: プロダクションでのUSD使用経験はありませんが、つい先日Katanaのテスト用にかなりの時間をかけてHoudiniでUSDファイルのオーサリングを行いました。USDワークフローのポテンシャルには非常に期待しています。これまで小規模スタジオがワークフローソリューションを活用するには多大な投資が必要でしたが、実行可能なソリューションとして捉えることができます。USDはまだ初期段階にありますが、openEXRやAlembicのように業界の支持を得ており益々期待が高まっています。

また映画の共同制作が一般的になりつつあるなか、双方がUSDでパイプラインを構築していれば、スタジオ間でのアセットやシーンのやりとりにおいてコストの削減につながります。

Q: これからKatanaを学ぼうとしている若いアーティストにアドバイスはありますか。

A: カラーセオリーやライティングの基本を学ぶことが必要です。見る人の気持ちを高揚させ魅了するには、これらのテクニックをどう利用するべきかを学ぶことです。また平行して、ワークフローの一部としてリファレンスを使用したり、常に色々なリファレンスを集めてそこからインスピレーションを得たりといったことも大切です。

ルックデベロップメントに取り組む際にはオブジェクトを注意深く観察することが非常に重要です。ライティングとサーフェスの相互作用、サブジェクトを構成しているマテリアルの風合い、車体であればクリアコートのようにレイヤーになったマテリアルの構造を理解しなければなりません。

実際に触れた時の感触、鋳造の際のわずかな継ぎ目やひずみ、加工によって生じた異方性や溶接の痕など、リファレンスの構築過程までを視野に入れる必要があります。

さらにはサビや堆積した塵や埃といったマテリアルの状態や経年変化、付着した手垢などがルックデベロップメントにリアリティを持たせるのです。

リファレンスのレンダリングと比較を繰り返すことで、ルック表現の良し悪しを決める微妙な差異を読み取り学ぶことができます。自分の目で見たものを、利用できるツールを使ってベストなかたちで再現してみてください。レイヤーシェーダーではエネルギー保存の法則を忘れがちです、ソフトウェアが正しく処理できるかどうか、またこれらのレイヤーを自分で管理することも大切です。

Q: VFX業界、特にルックデベロップメントやライティングに興味を持っているアーティストにとって、今後どのようなチャンスがあるとお考えですか。

A: 私が数年間運営に携わったバンクーバーのMPCライティングアカデミーは、実際の現場で活躍するアーティストと密接に連携しながら仕事を学び、業界への足がかりを作る機会を学生に提供していました。そうした機会を提供してくれるスタジオを見つけることは、良いスタートに繫がるかもしれません。

デモリールについては量ではなく質の問題ですから、自信のある作品だけをまとめたほうがいいでしょう。学生は忙しいですし、デモリール制作に時間をかけてはいられないですから。面接ではプロジェクトに対する熱意を伝えることが重要です。また、想定される質問については事前にしっかりと準備をしておきましょう。

Q: ルックデベロップメント/ライティングの今後の展望とKatanaの活用について、どのようにお考えですか。

A: Katanaは既に素晴らしいルックデブツールですが、今後は、様々なレンダラーやソフトウェアプラットフォームに対応するマテリアルやバインディング作成が可能な、より柔軟なマテリアルライブラリが求められるのではないかと思います。実際この点に関しては、すでに様々な取り組みが始まっています。

よりインテリジェントなサンプリングシステムやAIを活用したノイズ除去テクノロジー、主流グラフィックカード対応のハードウェアアクセラレーションによるレイトレーシングなど、レンダリング時間の短縮を図る最新テクノロジーには大きな期待を寄せています。こうしたテクノロジーはKatanaの柔軟性と緊密に連携していくことでしょう。

 

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