バーチャルプロダクションの現在地

テクノロジーの進歩は、課題解決のための革新的手法を創出し、クリエイティビティを支援することを目的としているが、時に、懐疑的な見方が生じて適応が難しくなることがある。エキサイティングで日々進化する、最新の撮影技術バーチャルプロダクション(VP)についても同様だ。これまでのやり方を刷新するべきか。真っ先に試してその価値を見極めるべきか。それとも、具体的な成果が出るまで待つべきなのか。

未だ未知数な部分も多いが、バーチャルプロダクションツールをはじめ、この分野に価値をもたらすテクノロジーの普及が進んでいることは否定できない。それを踏まえ、こうしたテクノロジーや関連する最新の議論について見てみよう。

課題解決のソリューション

バーチャルプロダクションの最新動向で繰り返し取り上げられているテーマのひとつが、VPに関する業界の専門家の教育についてだ。LEDウォールについては、使用すべきか否か、使用するのであれば、どこでどのように使用すべきかについて、まだ慎重な姿勢を示す映画制作者もいる。撮影現場でのコントロールができない、利用可能なツールを最大限に活用する方法がわからない、プロジェクトごとに一から作り直さなければならない、というのが彼らの主な懸念事項だ。

Foundry Team at SIGGRAPH 2022

バーチャルプロダクションが確実に拡大する中、こうしたテクノロジーシフトの持続性については疑問も生じる。Volker Helzle教授率いるFilmakademie Baden-Wuerttemberg(ドイツ)の研究チームは、VFX制作におけるVPの持続性について調査を行い、2つの学生プロジェクト『Sprout』と『Awakening』のエネルギー収支の比較を示した。前者はグリーンスクリーンのような従来のオフライン制作を行ったのに対し、後者はLEDウォールを使用したインカメラVFX、バーチャルプロダクション撮影を実施した。

その結果、撮影規模はほぼ同規模ながら、オフライン制作に比べバーチャルプロダクションのエネルギー消費が大幅に低かった。これは、オフラインレンダリングのエネルギー消費が多いからだが、それだけではなく、バーチャルプロダクションは移動コストやCO2も削減できることが強調されている。概して、VPは、従来のオフライン撮影よりも持続可能なソリューションであると言えるが、すべての撮影がバーチャルプロダクションやLEDウォールの使用に適しているわけではないことを念頭に置いておく必要がある。

また、バーチャルプロダクションでは、LEDウォールとカメラに映る色とのミスマッチが起こりやすいという、非常に困難かつ重要な問題が発生する。LEDパネルの色再現能力の限界、あるいはセット内の追加光源がLEDウォールに影響を与えるために起こるこの問題に対して、NetflixのCarol Payne氏とFrancesco Luigi Giardiello氏が解決に乗り出し、OpenVPCalと呼ばれるキャリブレーションツールセットを提案した。

OpenVPCalでは、壁に表示されるキャリブレーションパッチをカメラに取り込み、OpenColorIO変換を生成。これにより、プロダクションはトラッキングや転送の管理、再現がはるかに容易に行える。さらに、LEDウォールに出力されるピクセルでこのOCIO変換を使用することで、インカメラと実際にウォールに出力される色を一致させることができる。Netflixがこの問題に大きな関心を寄せている事実は、信頼性の高いカラーワークフローの重要性と、この問題が実際にどれだけ複雑であるかを示すもので、OpenVPCalがオープンソースのフレームワークである点はありがたい限りだ。

Foundry Team on Comandante at SIGGRAPH 2022

Foundryは昨年のSIGGRAPHで、「Near Real-Time (NRT) ワークフローとその利点について」というテーマでセッションを開催し、第二次世界大戦における潜水艦司令官の実話を描いたイタリア映画『Comandante』の機械学習支援による新しいVPワークフローを紹介した。大量の水を使用したシーンでは、低ピクセルピッチの防水LEDパネルを使用しなければならないため、画質の低下は避けられない。しかし、NRTを導入することで、CopyCatや UnrealReaderなどの新しいツールはもちろん、リリース前のツールやレンズキャリブレーションワークフローなどを使用して、リアルタイムでショットのクオリティを上げ、パネルのライトをそのまま活用しながら、セット上でVFXを開始できるので、インカメラVFXとポストプロダクションをシームレスにつなぐことができる。

バーチャルプロダクションテクノロジーの活用

実際の制作現場においても、さまざまなバーチャルプロダクションテクノロジーが活用されている。

インダストリアル・ライト&マジック(ILM)では、スター・ウォーズ実写ドラマ『マンダロリアン』のためにステージクラフト(StageCraft)という撮影技術を自社開発。これは、撮影前にスカウト、デザインした映像を主要撮影段階でインカメラで再現することができるというもので、LEDやプロジェクションの手法と組み合わせることで、撮影時間の短縮やVFXショットのコスト削減が可能になり、厳しいスケジュールで作業を行うポストプロダクションの現場に大きなメリットをもたらす。しかし、前途のように、バーチャルプロダクションは万人向けのソリューションではない。ILMは、LEDボリュームは約50%のプロダクションにしか適さないことを強調し、実際、使用を諦めさせなければならないこともあると話している。

バーチャルプロダクション、ディスプレイ技術、インカメラVFXに特化したコンサルタント業務や現場での制作サポートを行うスタジオ Lux Machinaも、昨年のSIGGRAPHでインフラについての広範な知見を示した。Phil Galler氏は、同社のネットワークセットアップと高帯域幅のセンタライズされたストレージサーバーを活用したバリューポイントの削減について講演を行い、上海で開催されたLeague of Legends Worlds 2020の生放送環境での活用例を紹介した。同社はこの大会で、カメラトラッキングやマルチカメラのワークフローを備えたLED拡張現実(AR)を提供したという。

オンエア時間は240時間、ピーク時の視聴者は約6,000万人という、非常に複雑なセットアップが必要な特殊な状況下で、見栄えの問題ではなく、競技や結果に影響するため、不具合が発生することは許されなかった。2分間のコマーシャルの間に次のセットアップへクラスタを切り替えたという、冷や汗の出るような話も紹介された。これは、バーチャルプロダクションに関するLux Machinaの知見の深さと信頼度の高さを示すことに他ならない。

バーチャルプロダクションの進展

バーチャルプロダクションのような技術の進歩にあたっては、映画制作者やソフトウェア開発者は常に学び続ける姿勢を持たなくてはならない。その将来性だけでなく、潜在的な問題やそれに対する解決策についても理解したうえで、こうしたツールの使用方法だけでなく、どのような場面で使うのが適切なのかを学び、これが「汎用的な」テクノロジーではないことを受け入れる必要がある。しかし、バーチャルプロダクションは、VFX撮影のコストや時間の削減において映画制作者を支援するだけでなく、私たちのようなソフトウェア開発者にとっては、お客様が直面する課題に対する解決策を提供するための起爆剤としての役割を果たすものだ。

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