マーベル 『ホワット・イフ・・・?』 - アニメーションの多次元的可能性の創造

Image courtesy © Marvel 2021

マーベルヒーローたちのあり得たかもしれないもう一つのストーリー

マーベル・スタジオ初のTVアニメーションシリーズ 『ホワット・イフ・・・?』は、マーベル映画のストーリーを基に、映画とは全く違う運命を辿ったヒーローたちの、あり得たかもしれないストーリーをアンソロジー形式で描く作品だ。「もしもウルトロンが因縁の戦いに勝利し、サノスがインフィニティ・ストーンを手に入れられなかったら?」、「もしも、ペギー・カーターがスティーブ・ロジャースの代わりにキャプテン・アメリカのマントを持っていたら?」といった、「もしもの世界」が展開されていく。

このプロジェクトを完成させるために、マーベルは、高い評価を受けるオーストラリアのスタジオ Flying Bark Productionsに協力を求めた。独立系長編映画で知られるこのスタジオは、近年活躍の場を広げ、従来の手描きの2DアニメーションとCGIアニメーションの両方を手掛けており、このプロジェクトに最適であった。

Evil Doctor Strange in Marvel's What IF
Marvel What If

アプローチを受けて、Flying Bark Productionsはマーベルと緊密に連携し、アニメーションのスタイルを詰めていった。アニメーション制作責任者のAlexia Gates-Foale氏とスーパーバイジングプロデューサーのTracy Lenon氏は、次のように話す。

「最終的にCGIと2Dを掛け合わせたスタイルに決まり、必然的に2DとCGの両チームの優れた才能を融合させて、美しいアニメーションを実現することにしました。ドクター・ストレンジのエピソードの一部でテストを行ったのですが、マーベルはほんの数ショットを見ただけで、そのエピソードだけでなく、他のものも私たちに任せてくれることになったのです。[...]素晴らしい才能を持ったスタッフによって、CGIと2Dのハイブリッドな新しいパイプラインが開発されました。創意工夫をしながら研究開発を進め、新しいシステムの開発に取り組みました」。

Flying Bark Productionsのアーティストは、この作品に携わることをとても楽しみにしていたが、他のマーベルプロジェクト同様のMCUファンからの根強い人気に対し、プレッシャーもあったという。

「彼らの期待に応えなければならないという大きなプレッシャーがあることは、事前に分かっていました」と両氏は言う。「特に、パンデミックの影響で多くの実写映画が上映中止になるなか、『ホワット・イフ・・・?』は、2020年に立ち消えにならなかった数少ないプロジェクトの一つだったため、マーベルの社内においても大きな話題になっていました。 [...]スタッフの多くは在宅勤務で作業を開始しましたが、自宅でのリモートワークにおいても厳格なセキュリティポリシーが課せられました」。

前途には困難な課題が待ち受けていたが、Flying Bark Productionsはプロジェクトをスムーズに進めるためにFoundry のNukeとKatanaを活用し、マーベルファンも満足する作品を作ろうと意気込んで制作に取りかかった。

新たなヒーロー制作

制作作業が始まると、さまざまな技術的課題が顕在化する。まず、世界はロックダウンに突入し、多くの大手スタジオが自宅待機という、VFX業界では前例のない事態となった。幸い、Flying Bark Productionsは在宅勤務にも迅速に適応することができた。

「海外パートナーとの共同制作が多く、他のプロジェクトではすでにリモートで作業を行うアーティストもいましたから、パイプライン自体は完全なリモート化にかなり適応性の高いものでしたが、セキュリティプロトコルのアップデートは最大の課題のひとつでした。また、毎朝の進捗確認や日々のチームミーティングなど、管理者とアーティスト間のコミュニケーションも重視していました」。

また近年では、クロスメディアのスタイル/フォーマットなどのアニメーションの新しい表現手法が台頭し、2 Dや3 Dのアニメーションだけではなく、2.5Dのハイブリッドやその他ユニークな技術が新たなルックを生み出しているが、この作品においてもそのユニークなアニメーションスタイルが大きな課題となった。

「この作品のワークフローは通常とは異なるものだったので、2 Dと3 Dの最適な統合方法を求めて試行錯誤を繰り返し、連携して作業を進めるために、2 Dと3 Dの両方について理解を深める努力をしました。また、この作品をミニエピソード映画に近いものとして捉え、シリーズ作品と長編映画の間のプロジェクトとして扱いました」。

Marvel What if

Flying Bark Productionsはこうしたことに尻込みすることなく、アンソロジーシリーズの革新的なスタイルを受け入れ、ワークフローがスムーズに実行されるようにNukeを活用した。

「Nukeのツールセットは2.5 Dスタイルのアニメーションに最適です」とVFX責任者のAnders Thönell氏とVFXスーパーバイザーのGreg O'Connor氏は言う。「特に、3 D空間のジオメトリにイメージをマッピングし、コンプに追加することができるのは非常に便利です。[...]最大の課題の一つとなったのが、レイヤー化されたマットペインティングにほぼ完全に依存しながら、3D感のある環境を作り出すことでしたが、NukeではBGレイヤーを3 D空間に編集可能なまま最終段階まで残しておくことができるので、効率的かつ柔軟に対応できました」。

「マッピングされたBGペイントを保持しながらレイアウトカメラとジオメトリをインポートできるNukeの3D機能は非常に実用的です。この機能により、例えば、ロストラムカメラの動きを強調するために、マットペインティングの位置をより細かく制御するといったことが可能です」と両氏は続ける。

 

また、Flying Bark Productionsの3DライティングツールであるKatanaも、チームのワークフローを可能な限り効率的に維持する上で重要な役割を果たした。トゥーンシェーディングというこのプロジェクトの性質上、全ての3Dアニメーションのキャラクターを手描き風の、作品独特の雰囲気に沿うものにすることが求められた。

「Katanaのおかげでライティングの入出力の標準化が実現できたことで、出力したイメージを管理し、コンポジティングチームが毎回同じ構造のショットを受け取れるようにしたことで、一貫した方法でシーンを構築できるようになりました」。

マルチバースの表現

マーベル・シネマティック・ユニバースの魅力の一つであるユニークな世界観は、『ホワット・イフ・・・?』でも例外ではない。シリーズには、ファンの間ではお馴染みの親しみのある世界が数多く登場するが、さまざまなキャラクターや環境が次々に登場するアンソロジー番組ならではの問題も存在する。

Gates-Foale氏とLenon氏によれば、「アンソロジーの最大の技術的課題は、シリーズ全体でスケールメリットがあまり得られないこと」だという。「毎回新しいキャラクターや環境が登場するので、繰り返し登場するキャラクターがあると喜んでいたのですが、実は衣装や髪型がすっかり異なる別バージョンのものでがっかりしたということもありました」。

マーベルの知名度が高いだけに、すべてのキャラクターやオリジナルの映画の設定を、観客が容易に認識できるものにする必要があり、この作品の重要な要素でもある「マルチバース」の表現は、特に難しい課題であったという。

「3Dジオメトリをベースにしたダイナミックで無限に広がるマルチバースを、Katanaで作り上げる必要がありました。このライティングは非常にコンセプチュアルなもので、最終イメージのほとんどがコンプで制作されているなか、そのアプローチとルックを把握するのに苦労しました」。

「テンプレートを使用してシークエンスベースのライティングを管理するのに、Graph State Variableが非常に役立ちました。[...] テンプレートベースのワークフローにより、シーンのデバッグが素早く簡単に行えます。そして非常に軽くてダイナミックで、数秒でシーンをロードすることが可能です」。

Nukeにより、Flying Bark Productionsは、BGマットペインティング、2 Dエフェクト、3 Dエフェクト、および3 Dレンダリングの4つの部門のコンテンツをブレンドして、信頼性の高いワークフローを実現した。

「Nukeの洗練された3Dツールはこのプロジェクトに最適でした。長い実績と膨大なユーザーベースを持つ非常に堅実で信頼性の高いツールなので、他のソフトウェアを使用するよりもはるかに容易に、才能あるアーティストを採用することができます」。

また、2Dラインワークの作成に使用するレンダリングソフトウェアや手法が各スタジオで異なったため、エピソード間でキャラクターのルックやショットにばらつきが出ないように、マーベルのビジュアルデベロップメント責任者であるRyan Meinerding氏や他のアニメーションベンダーと密接な連携が図られた。

Flying Bark Productionsは、ユニークなアンソロジーシリーズ制作にあらゆる手を尽くし、NukeとKatanaを活用してマーベルファンにも愛される作品を作り上げることに成功した。

Marvel What if

アニメーションの道を拓く

活況を呈するアニメーション業界では、アーティストはイメージするものは何でも形にして視聴者に届けるクリエイティブな自由を手にすることができる。マーベルの『ホワット・イフ・・・?』は、それを示す素晴らしいコンテンツだ。アニメーションがスクリーンから消えることはないと考えられるなか、この世界に足を踏み入れようとしている人たちに向けて、Gates-Foale氏とLenon氏は次のようにアドバイスを送る。

「クリエイティブな期待と予算とのバランスを取るのが、アニメーション制作における最大の課題でしょう。そのためには、制作パートナー、クライアント、ベンダーとのオープンで良好な関係を築く必要があります。仕事に携わるすべての人が前向きな考えを持ちお互いを尊重していれば、たいていのことは克服できますし、素晴らしいアニメーションコンテンツを作り上げることができるはずです。

「研究開発には多くの時間がかかり試行錯誤が必要ですが、うまくいかない点を早めに解決することで、初期段階からのプロセスの効率化を実現することができます。また、部門間、エピソード間のズレを考慮して、スケジュールと予算に十分な余裕を持たせなければなりません」。

そして次のように続ける。「アニメーションの世界に入るなら、今が絶好のチャンスです。私たちは常に、地元の学校や大学で学んだ才能を持った新しい人材を探しており、近日中に詳細を発表する予定ですが、来年には正式なトレーニングプログラムも立ち上げる予定です」。

今すぐDisney+ で『ホワット・イフ...?』を見る 

Foundryのアニメーションソリューションを見る