Artist Spotlight: Ari Rubenstein

Image courtesy of Curv Studios

VFXスーパーバイザーのAri Rubenstein、プリビジュアライゼーションプロセスをサポートするFoundryのストーリーボード作成ツールFlixを採用

Ari Rubensteinは、映画やエピソードコンテンツを専門とするロケーションにとらわれないスタジオ、Break + Enterで働くVFXスーパーバイザーだ。前職のBlue Sky Studiosには15年間在籍、それ以前はTippett StudioやXaosに勤務しながら、『マトリックス』、『コンスタンティン』、『シャーロットのおくりもの』、『ヘルボーイ』などの超大作に携わってきた。

また、1998年に弟のJordanと設立した自身のスタジオAri: Curv Studiosでは、IMAX映画やゲームシネマティクス、3 Dアニメーション、VFXまで、幅広いメディアをカバーする。

Ariは、「Curvでのサイドプロジェクトでは、刺激を受けたテクノロジーを積極的に活用し、心を動かすストーリー制作を行なっています。新しいテクノロジーや新鮮なテーマをベストだと思うタイミングで試してみることもありますし、これまで試す機会に恵まれなかったものに挑戦することもあります」と話す。

こうしたビジョンのもと、Ariは現在、Curvで『Small Blue Shadow』という短編映画に取り組んでいる。この作品では、リアルタイム技術とFoundryのFlixを活用して、初期プリビジュアライゼーションの絵コンテ作成と編集が行われた。「Flixを使うことで、以前の短編作品『The Blues Crab』の時よりも、編集室に残って作業をする時間が大幅に少なくなりました」とAriは語る

『Small Blue Shadow』も『The Blues Crab』も、Ariの情熱の賜物であり、観る者を惹きつける。「視覚的、心理的なアイディアを思いつくのが楽しくて仕方ないのです。映画やCGの世界に入る以前の10年間、国内を駆け回っていたので、表現したいことはたくさんありますが、自分が一番心動かされることを表現したいと考えています」とAriは言う。

「今は、ただ感情を伝えるだけでなく、自分が感動するのと同じくらい観客も感動するようなストーリーを描く技術を習得したいと思っています。これは映画制作者にとって大事なことです。技術者としてパイプラインの中で作業することとは別に、ストーリーを語るためには、他に身につけなければならないことがたくさんあります。そういったことを、こうしたサイドプロジェクトを通して学んでいるのです」。

以下では、新しいタイプの物語を紡ぐ上でFlixがどのように活用されたか、また、『Small Blue Shadow』や『The Blues Crab』の背後にあるクリエイティブプロセスについて深く掘り下げていく。

 

Q:『The Blues Crab』や『Small Blue Shadow』のようなプロジェクトに着手する際、どこからクリエイティブなインスピレーションを得ていますか。

A:『The Blues Crab』では、単純に、幼少期に早朝からカニ採りに出かけて、朝日を眺め、ボートや自然の音に耳を傾け、モータウン、ブルース、ゴスペル、ソウルミュージックを聴いた、あの時に感じた気持ちを表現しようとしました。私にとって、視覚的にも心理的にもエキゾチックな空気に包まれていた、あの感覚を再現したかったのです。また、自分がこれまでの人生を通して感じたことを、少しだけストーリーに反映させたいという気持ちもありました。私は現在53歳ですが、Blue Sky Studiosではスタッフの大半がその半分にも満たない、学校を卒業したばかりの本当の人生はこれからという20代半ばから30代前半でした。

だから『The Blues Crab』では、厳しい現実をたくさん見て、語るべき話をたくさん持っている、年配で白髪交じりのブルースマンを描きました。しかし、どんな文化や人生においてもよくあることですが、若い世代は年長者の話は聞こうとせず、必要なことはすでに知っていると思っています。ですから、年を取るにつれて、誰も話を聞いてくれないので少し気難しくなってしまい、やっと少しは有益な話ができるようになったと思った時には、皮肉なことに誰も聞いてくれないのです。

『Small Blue Shadow』は、昔、プラトンの『洞窟の比喩』を読んだ時に思いついたアイディアを視覚的に表現しようとしたものです。この寓話は、人間は、この世に生を受けて知識と啓発を得た後で、無知であった場所に戻ることはできないという、社会における無知と教育の本質を例えたものです。『Small Blue Shadow』では、人間の知覚世界には限界があり、実際の世界は常にもっと広いということを表現しています。より広い世界を知った人間が、狭い限定的な世界に生きている人間にその存在を伝えたとしても、それを理解することはできないでしょう。人間は、自らの知覚している世界の限界に気が付くことは容易ではないのです。

Ari Rubenstein image

最初の頃は、洞窟の寓話を文字通りの文脈で表現しようと考えていました。短編映画で視覚的に表現できると思っていたのですが、ストーリーボードの構想に数年を費やしても観客に納得してもらえるようなものができず、周りからのアドバイスもあって、現代における比喩に置き換えてみることにしました。

『Small Blue Shadow』は小さな町からマンハッタンにやって来た1人の女性の話です。昔はやり手だった彼女が、マンハッタンの広告代理店で働いて10年、今は冴えない人生を生きています。彼女の話を聞いてくれる人はおらず、内的発話を繰り返しているのですが、毎日マンハッタンからブルックリンへの仕事の帰りに夢を見るようになります。その夢はやがて潜在意識となって、人生の課題やその解決方法、長い迷路から抜け出す方法を指し示すようになります。その夢の中で、彼女は洞窟の寓話を見るのです。

Ari Rubenstein side-by-side
Ari Rubenstein side-by-side

Q: Flixはクリエイティブ/コンセプトプロセスをどのように支えていますか。

A:私は、Flix、Nuke、その他のFoundryツールを使って、プロジェクトを具体化しています。まず直線的に書き出してみて、面白いと確信したらショットの作成に取りかかります。その一環として、別のドキュメントとしてショットリストを作成し、それから各ショットのビジュアルを考えます。この時点で、もっとも基本的なビジュアルを自分が分かる形で簡単に表すことができれば、ストーリーボードでも3Dアニメでも何でも良いのです。

私はAvidを持っていないので、Flix単体で使うことがほとんどです。私のような個人で映画を制作する者にとっては、Flixはメリットしかありません。Flixを使用してストーリーボードアーティストと連携すれば、ワークフローがスムーズに進み、面倒な作業が軽減されます。

私にとってFlixは、単なるストーリーボード作成/プリビズツールというよりも、ビジュアライゼーションツールです。ビジュアルプロジェクト管理用のプリビズのようなものです。DMPのすべてのショットをFlixのシークエンスのようなものにまとめることで、すべてのレイアウトを確認することができます。その後、Flixをさまざまな方法で使用して、プリビズショットやシークエンスを組み合わせていきます。似たようなショットのグループを視覚的に参照する必要があるVFXスーパーバイザーにとっても最適なツールです。

Q: Flixはこれまで直面していた課題の解決に役立っていますか。

A:とにかく、Flixは時間の節約になります。ページレイアウト、プリントアウト、X-Actoナイフでの切り抜き、コルクボードへの貼り付けなどに時間を費やしていると、アセットを制作したり、イメージを洗練させたりすることに時間を使うことができません。

複数のアイディアを視覚的に試すことは、普通のソフトウェアでは非常に難しいことです。何をすべきかはっきり分かっていれば、その作業をこなせるソフトウェアは山ほどありますし、リアルタイム編集については、Unreal Engineや他の新しいツールが先導しているような話もよく耳にします。確かにそうですが、リアルタイム編集を行うにはパイプラインを反転させるだけではなく、必要なアセットを把握した上で、すべてを作成しておく必要があります。

Flixは、リアルタイム編集の前段階での無駄な時間を省くことが可能です。Flixで試行しながらストーリボードに変更を加えていけば、不要なシーンをカットすることができるので、余計なアセットを作る必要もなくなります。

時間やお金を費やしてシーンを作成した後で、Unreal Engineでのリアルタイム編集の作業すら必要なくなってしまっては元も子もありません。

Ari Rubenstein Flix example

Q: Flixを使い始めた時期とそのきっかけを教えてください。

A: Tippett Studioで『マトリックス』の仕事をしていたとき、コンポジターは、壁のコルクボードに貼り付けられた切り抜きの中から、自分の担当ショットを選んでいたと記憶しています。最初の経験がそれだったので、『Small Blue Shadow』を作り始めたときも同じことをしました。

壁にはコルクボードがたくさん貼り付けてありましたが、「どうやってアイディアを試行錯誤すればいいのか」という課題に直面しました。イメージを作り直して、いろいろな編集を試すのは非常に手間がかかりますから、そういったソフトウェアがあるはずだと思ったのです。

Blue Sky Studiosでは、長年、編集/ストーリー部門の仕事を見てきましたが、ストーリーボードアーティストが1ショットにつき1コマを描いていました。その後、その画像をスキャンしてFlixに取り込み、そのEDLをAvidにリンクさせるといったインフラができあがっていて、この時点で、基本的なスクラッチトラックを繋ぎ合わせて一つのストーリーボードが完成するわけです。そこで、『Small Blue Shadow』でも同じことができないかと考えました。

1年半ほど前にFlixを導入してからは、プリントアウトしてX-Actoナイフで切り抜き、コルクボードに張り付ける作業をやめ、すべてのシークエンスを並べることができるようになりました。コマをドラッグするだけでシークエンスごとに新しいバージョンを作成し、直線的な流れをすぐに確認することができます。Flixは古いバージョンもすべて保存してくれるので、後から見返すこともできます。

これは、シークエンスのさまざまなカットをイテレーションして、ステークホルダーとストーリーの検討を行わなければならない立場の私にとっては、非常にありがたいことです。現在は、まだ編集作業に入る前の段階で、Flixを使って自分の頭を整理しながら脚本家たちと一緒に作業を行っているところです。

Flix UI side-by-side
Flix UI side-by-side

Q: Flixで特に気に入っている機能はありますか。

A: すぐに思いつく利点は2つあります。例えば、シークエンスをショットごとに直線的にレイアウトしたら、全ショットを選択してフレームレートを設定することができる点です。その後、シークエンス全体を選択して一つのQuickTimeファイルとしてエクスポートし、使用しているエディタで編集作業に入ります。

次に気に入っているのは、何かをプリントアウトして他の人と共有したいときに、すべてを選択してコンタクトシートを1枚のJPEG画像としてエクスポートできることです。テキストやエントリーなど、手動で入力しなければならない情報をFlixが記載してくれるので助かります。

他にも気に入っている機能がいくつかあります。例えば、シークエンスごとに25回までのショット構成の異なる編集内容を保存することができるので、編集後であっても戻って確認することができます。

同様に気に入っているのがビンです。Flixにインポートしたものはすべてビンに保存されるので、ストーリーボードや、後で再利用する可能性のある古いショットなど、あらゆるバージョンのショットを検索することができます。ビンと編集の保存機能はかなり役に立っていますね。

最後に、長年にわたるFoundryのサポートに感謝したいと思います。コミュニティを支え、人やプロジェクトに投資し、ビジネスを越え、芸術を表現するためのツールを提供し続けてくれている、そして、そうした貢献が巡り巡って新たなインスピレーションへと繋がっているのです。Foundryは素晴らしい企業です。

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