『スパイダーマン: スパイダーバース』のルック制作(前編) - SPIにおけるKatanaとMariの活用

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ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス (SPI) における Katana と Mari を活用したルック制作

今年のアカデミー賞長編アニメーション賞を獲得した『スパイダーマン: スパイダーバース』は、スパイダーマンのルックをシルクスクリーン風のタッチで表現するなど、コミックスの世界を3D映像で再現するために斬新な手法が様々駆使されています。

この作品を制作したソニー・ピクチャーズ・イメージワークス(SPI)における Katana と Mari の活用法について、ルックデブ / テクスチャリングチームの主要メンバーに話を聞きました。

Spiderman jumping off the building

スタイリッシュで独自のルック表現

この映画に求められたビジョンを前提とすれば、ルックデブ工程における課題解決に多くの時間を要したのも驚くことではないと、ルックデブスーパーバイザーのBret St. Clair 氏は次のように振り返ります。「いつの間にか、いわゆる課題に対応するのは私の仕事になっていました。

この作品における一番の難題はスタイリッシュな独自のルック表現があらかじめ設定されていることでした。

特に制作初期の段階においてこれまでとは全く違う作業方法を余儀なくされることが多く、多くの時間を費やすことになりました。仕事を始めたばかりの駆け出しの頃と同じような手探りの状態で、通常のプロダクションとは大きく異なるものでした。」

SPIはこのプロジェクトの主要ライティング / レンダリングツールとして、もともと自社で開発して長年にわたり利用してきたKatanaとArnoldを使用し、膨大な時間をかけてモック用のノードネットワークを構築して独特のルックを表現するカスタムパスを生成しました。

「Katana の有用性を顕著に感じられたのはアイディアの検討段階でした。この作品ではあらゆるアイディアに対して検討が重ねられましたが、例えば主人公のマイルスが透明化するエフェクトについては、シェーダー設定の組み合わせをしらみつぶしに480通り試しました。

さすがに驚かれるでしょうが、単なる屈折表現などではなく、奥行きがあり、透明でありながらも存在感を感じさせる、見ている人にマイルスを連想させるようなエフェクトである必要があったのです。

さらにストーリー的な要件も満たす必要があり、エフェクトをマイルスの輪郭をかたどったものにするべきか否か、エフェクトの形成方法、周囲のテクスチャに対する影響などの課題もありましたが、Katanaのシェーダーアニメーションについては熟知していたためエフェクトのスケールや密度、出現アニメーションなど多彩なシェーダーパラメーターを調整することで思い通りの表現ができました。

しかしながら、ディレクター陣がルックに対する強いこだわりを持っており、決定までにはさらに複雑なプロセスが必要で、シェーダーの構築に2〜3日、レンダリングツールをフルカスタマイズしてルックを検証し、ようやく最終的なルックの決定に至りました。

別のシーンやジオメトリでうまく表現できたエフェクトも、他のシーンでは流用できないケースがほとんどで。

リファレンスには水彩、エアブラシ、波線やはねなど極めて多岐にわたるブラシのバリエーションが存在し、どのようなジオメトリ形状が適しているのか検討もつかない状態でした。

全ての可能性を手動で試すわけにもいかず、少なくともアイディアを試すことができるように、シェーダーをハックしてジオメトリ形状を調整することにしました。

20ほどのパスと大量のAOVをテストして必要な要素の洗い出しを始めると、翌朝にはルックの決定に必要なデータがすべて揃い、パス生成用に構築したマシンに受け渡したところ申し分ない結果が得られました。

それぞれのキャラクタや背景、エフェクトによってライティングや処理上の要件がまったく異なることがほとんどで、極めて複雑なデータ管理が必要ですが、Katanaではルックデブのデータを分離することができるため面倒なデータ管理に煩わされることはなく、データ共有もスムーズに行えます。」

gwen stacey

あらゆるシーンで最適なライティング

Katana の採用は、『スパイダーマン: スパイダーバース』の作品全編にわたるシーンのライティングに大きなメリットをもたらしたとSt. Clair 氏は言います。「プロセスのマクロ化が簡単なため、細かな作業を簡略化することができました。」

Katanaではシングルノードあるいはグループ化されたノードをマクロ化してパブリッシュ、保存したマクロはどこからでもアクセス可能です。複雑であってもロジックを非表示にしてグループ化できますし、テンプレート化され再利用可能になりますので将来的な業務効率化にもつながります。

さらには、様々なレンダリング要件に対してもマクロを用いて柔軟に対応することができたとSt. Clair 氏は言います。「キャラクタに最適化したマクロを選択することで、どんなに複雑な条件下でも適切なライティング設定が行えました。」

シェーダーの検討と構築に費やした時間は、後の作業工程での効率アップにつながったとSt. Clair 氏は次のように話します。「Katanaは設定作業で多少の労力を要しますが、シーンのライティングはより効率的になります。マクロは修正も簡単ですし、様々組み合わせることで効果的なものを作ることができました。」

他にもKatanaでのデータハンドリングによるメリットが大きかったとSt. Clair 氏は言い切ります。「私の知る限り、他のツールではこれら複雑なデータ管理に対応できなかったはずです。

Katanaの利点は複雑なデータを効率的に管理できることです。データ管理の複雑さはこの作品における一番の課題でしたが、これまで私が携わったものの中でも、おそらくKatanaのメリットを最大限に活用できた作品であったと思います。」

膨大かつ複雑なデータと無数のルックバリエーションの管理

St. Clair 氏は、Katanaを用いたデータ管理の具体例として、コライダーでの最終バトルシーケンスを取り上げ次のように語ります。

「コライダーのシーンを演出するためには、カスタムのルックが設定されたメインキャラクタ達を、背景となるコライダーオブジェクトとともに一つのテンプレートにまとめる必要がありました。建物や列車、車などのあらゆるプロップやエレメントを追加して巨大なテンプレートになったのです。

通常ではそれぞれのアセットにルック情報が割り当てられるのですが、ライティングしながら新しいアイディアを試すためにエフェクトを作成しました。そのような場合ルックデブのデータは割り当てられていませんのでアセットにグリッチが発生することもありましたが、大きな問題になることはないと分かっていました。

実はこの複雑なシーケンスを確認できたのは納品の数ヶ月前になってからです。タイトなスケジュールの中でルックの調整が始まったわけですが、Katanaのおかげで良い結果を生み出すことができました。」

Gwen Stacey

Nuke と Katana の連携

St. Clair 氏はこの作品におけるKatana と Nukeの連携について、次のように続けます。「私にとってKatanaは、多くのアイディアを試すためのプラットフォームのようなものでした。ルックやエフェクトはKatanaで作成しましたが、すべてをKatanaで済ませるわけには行きませんでした。

この作品では、例えばブラシのパターンが動いて最終的なドットの位置に至るまでといったあらゆる事項において非常に細かい指示が数多くありました。今までの方法ではとても対応しきれなかったでしょう。

このプロジェクトで構築したツールはほとんどすべてがデータアクセスの利便性、レンダーへのデータの受け渡しを考慮したものになりました。最終的にはAOVに必要な情報をまとめ、Nukeに流し込んでインタラクティブに活用できるようにしています。

その結果作業効率が大幅に向上し、アーティストはデザイナーやアートディレクターのように、よりクリエイティブな作業に専念できるようになりました。すべてがうまくいったとは言いませんが、たった一つのスライダーでも生産性や効率に大きな違いが見られました。

こうした効率化を図るためのツール開発を最後まで徹底的に行ったため、ワークフローは常に変化しましたが、最終的な映像表現については非常に満足しています。」

チームはKatana と Nukeを巧みに連携し、この作品のすべてのレンダリングルックを完成させました。St. Clair 氏は言います。「こうしたバラエティに富んだルック表現を実現できたのは、堅牢なツールのおかげで思い通りに作業を進めることができたからに他なりません。

アーティストは技術的な課題に煩わされることなく NukeやKatanaと内製ツールを連携させ、作品に求められた革新的な表現の数々を実現することができました。これは非常に素晴らしいことです。」

Gwen Stacey

膨大なテクスチャリング作業

『スパイダーマン: スパイダーバース』の制作に使用されたFoundryツールはKatana と Nukeだけではありません。Mari もまた、テクスチャパイプラインにおいて重要な役割を担いました。

プロシージャルやペイント、調整レイヤを自由に組み合わせることのできるMariと既存の社内ツールセットを併用することで、面倒なサーフェシング作業を大幅に効率化でき、また作業結果の確認、調整も容易でした。

SPI のテクスチャペイントスーパーバイザーを務めるEdwin Fabros 氏は次のように説明します。「Mariはペインティング/サーフェシング の主要ツールとして使用され、キャラクタや背景、プロップの大部分のペインティングとテクスチャリングをMariで行いました。

他のペイントパッケージも特定の機能については使用しましたが、結果をMariに取り込みテクスチャの最終ルックを完成させています。」

Mariはこの作品以前からSPIのテクスチャパイプラインに統合されており、一連の内製ツールとの連携も良好で、堅牢なテクスチャリングワークフローは作品のルックを実現する上での鍵となりました。

Fabros 氏によれば、ルックデブ/ライティングチーム同様テクスチャチームもまた、ディレクター陣の求めるビジョンを実現する上で多くの課題に直面したといいます。「最も苦労したのは、動くコミックブックとも言える作品にふさわしいルックバランスを見出すことでした。 

最終ルックを得るための最適なレシピは複数のチームの協力で実現し、テクスチャチームが効率良く作業できるようになりましたし、各チャンネルレイヤーのハンドリングも簡単でペイントに集中できて管理も楽でした。」

Second

UDIMワークフローの活用

Mariの最大の強みの一つは、UDIMワークフローのサポートです。これによりアーティストは、数百にも及ぶ高解像度テクスチャマップを単一タイルと同じように扱うことができ、プロジェクションを使用して複数のマップを1回のストロークでペイントすることができます。

Fabros 氏はこのプロジェクトでのUDIMワークフローの活用について次のように話します。「Mariの導入によって、他のペイントパッケージでは実現できなかったUDIMペイントが行えるようになりました。 

タイリングやAxis 、 Tri-planarといったプロジェクションツールなどの機能は、キャラクタや背景の特定部分のみを素早くマスキング、分離するのに役立ちました。

様々な機能を組み合わせることで、作品全体のテクスチャとサーフェスを短時間でざっくりと決めることもできました。」

最後にFabros 氏はMariについて次のように言います。「Mari のおかげで膨大なアセットへのテクスチャペイントを巧みにこなし、きわめて特徴的で美しいアニメーション映画を完成させることができました。我々チームに対するMariの貢献度は計り知れません。

間違いなく、これまでで最高のペイントパッケージです。」

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