3DCGアニメーション映画 『白蛇:縁起』のハイクオリティなライティング表現

©️ Light Chaser Animation

北京を拠点とする追光動画、Katanaを活用し中国の伝説を映像化

2019年に中国で公開された『白蛇:縁起』は、北京を拠点とする追光動画の4作目となる作品で、そのハイクオリティな映像美が話題を呼んだ。

今夏日本でも公開された本作は、中国の古代伝説を題材として制作された3DCGアニメーション映画で、妖怪や獣がはびこる超自然的な世界で、主人公白(ハク)と宣(セン)の壮大なラブストーリーが繰り広げられる。

しかし、この圧巻の映像美は、単に作品のテーマのみに起因するものではない。2013年にGary Wangによって設立された追光動画は、過去3作の長編映画を通して、7年以上の歳月をかけてアニメーション制作の技術を磨いてきた。Foundryのツールを活用し、作品のリリースを重ねるごとに、優れたチームと強固な制作パイプラインの構築を図ってきた。幸いにも、『白蛇:縁起』は商業的成功を収めアニメーション作品として高い評価を得たが、「制作サイクルに課題がなかったわけではない」とパイプラインTDリードのJerry Kong氏は言う。

「アニメーション映画に求められるクオリティがますます高まる中、同じ制作サイクルの中で映像のクオリティを着実に向上させることができるようにする必要があります。アニメーション会社の制作効率と技術力が試されることになるわけです」。

Dragon from Light Chaser's White Snake

同社初の商業作品である2016年の『ガーディアン・ブラザーズ -小門神-』について、Kong氏は次のように続ける。「作品ごとにそれぞれ異なる課題があります。『ガーディアン・ブラザーズ -小門神-』での課題は、アニメーション映画の制作ラインをゼロから構築することでしたが、『白蛇:縁起』での課題は、複雑な植生環境、多くの特殊効果やレンダリングの制作と同時に、映像クオリティを向上させ、制作効率性を確保することでした」。

こうした課題を解決するために、過去6年間にわたり同社で活用されてきたのがFoundryのライティングツールKatanaだ。複雑なデータの管理、大規模シーンの処理やコラボレーション作業がスムーズに行えるKatanaは、低予算かつ短納期の一方でクオリティへの要求が高まっている昨今の制作現場が直面する共通課題への対応に貢献してきた。追光動画のこれまでのプロジェクトの中でも最もスケールの大きい壮大な作品である『白蛇:縁起』においては、制作チームに厳しい要求が課せられたが、Katanaの圧倒的なパワーとスピードは、制作プロセスを通じてチームをサポートした。

CG characters from Light Chaser's White Snake

Katanaによるライティング

2013年末に追光動画のパイプラインTDチームに加わったJerry Kong氏は、同社がリリースするすべての作品に携わり、制作パイプラインの自動化と再編成を行ってきた。Katanaパイプラインの構築とメンテナンスを担うKong氏は、同社の制作ワークフローにおけるKatanaの位置付けについて、専門的な立場から次のように話す。

「当社のパイプラインでKatanaはルックデベロップメントとライティングに使用しています。アニメーションデータは合理的にパイプラインを流れて最終的にライティングチームに集約されるため、上流のデータ管理は容易でライティングアーティストは本来のクリエイティブな作業に集中できます」。

優れた作品作りのためのクリエイティブな作業に多くの時間を費やすことができるように、アーティストを時間的制約から解放することは、KatanaのDNAの本質であり、継続的な製品開発の礎となっている。だからこそ、本作の厳しい制作スケジュールの中で、追光動画がこれを結実させたことは非常に喜ばしいことだ。

「『白蛇:縁起』のライティング作業は2018年の10月下旬に完了しました。制作サイクルは、年に1本のペースで手がけてきたこれまでのアニメーション映画と大きな違いはありません。」とKong氏は言う。

しかし、AOVを積極的に使用したことで、スタジオとしてこれまでの作品とは異なる貴重な経験を得ることができた。「レンダリングではすべてのライトレイヤを出力し、ライティングアーティストの調整範囲を広げました」。

詳細について、Kong氏はさらに次のように話す。「多数の特殊効果ショットを扱う時は、まずリグの作成に集中し、それを関連するショットにバッチで適用しました。最終的なルックは、3Dと中国のフリーハンド画法をバランスよく調整しています。十分な調整範囲を確保するために、ライトのレンダリングを従来よりも多くのレイヤーに分け、作品全体でライティングAOVを使用して調整しました」。

White Snake

Kong氏によれば、Katanaは、複雑なレンダリングの出力管理に非常に適しているという。「KtoA (Arnold for Katana)経由でレンダラに渡されるKatanaのインスタンス化データを多用し、それからKatanaのプロキシ表示モードは、シーンの操作性を高めてくれました」。

具体的にどのような機能やノードが、作業の効率化に繋がったのか。「KatanaのOpScriptノードは非常に便利で、オブジェクトプロパティの変更や新しいオブジェクトの作成が容易です。MacroやSuperToolはノードをパッケージ化して複雑な機能を使いやすくできて非常に実用的です。ノードを使用してテンプレートを構築することで、大規模シーンにおける作業の安定性が高まり、アセットデータの管理や修正が容易に行えます」。

Quote from Jerry Kong, Light Chaser Animation Studios

Mari、Nukeとの連携

この作品で重要な役割を果たしたのはKatanaだけではない。FoundryのツールであるMariとNukeもルックデベロップメントやショット制作に貢献し、「チーム間のシームレスなクリエイティブコラボレーションを促進する」というFoundryのミッションを見事に実践した。

「MariのテクスチャをKatanaにシームレスに読み込み、ルックを維持することができるのでとても便利です」とKong氏。さらにNukeについては、「Katanaでレンダリングしたシークエンスをワンクリックで読み込むこともできるので、アーティストは素早くイテレーションを行うことができます」。

Pre-lit CG scene from White Snake

スピードと効率性が最優先課題であることは間違いないが、パイプラインの構築には当然他の要素も関連する。Kong氏のチームでは、2020年の注目すべきルックデベロップメント / ライティングの5つのトレンドの一つでもあるUSD(Universal Scene Description)についての研究も進められている。

「USDは非常に柔軟性が高く、各種データの処理が容易に行えます。しかし、商用ソフトウェアのUSDに対するサポートは、程度の差はありますが遅れていて使用するまでには時間を要します」。

Light AoVs from White Snake

次世代アーティストの育成

追光動画のパイプラインにおけるKatanaの有効性については、同社が長年にわたりKatanaを使用していることから明らかだが、中国で最初にKatanaを導入した同社は、独自の観点からライティングアーティストの雇用やトレーニングを行なっている。

「パイプラインのプロトタイプ構築に着手したとき、ソニーをはじめとするさまざまな企業での工程と、ライティングシステム、そしてライティング工程でのKatanaの使用について調査しました。

比較検討を行った上で、さまざまなライティング工程におけるKatanaの使用を確立しました。まず、シニアレベルの制作スタッフがテクニカルディレクターとともに、新入社員が学ぶべきメソッドを教材やチュートリアルにまとめ、すぐに作業を開始できるように複雑なプロセスを単純なツールにパッケージ化しました」。

こうしたトレーニングを受けた新入社員には、情熱と創造性に満ちた素晴らしいキャリアが待っていることは明らかで、Kong氏はその好例だ。アニメーション映画制作にデジタルシネマトグラフィを使用する醍醐味について、Kong氏は次のように話す。「フィクションの世界を非常に説得力ある映像表現で再現し、観客をストーリーに引き込むことができます。技術者にとっては、プログラムや数式で問題を解決したり、アーティストの作業効率を向上させたり、映像のクオリティを高めたりできることは、非常にやりがいがあることです」。

正にその通りだ。

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