スタジオジブリ、初の長編3DアニメーションにNukeを採用

ジブリの世界観が詰め込まれた、ファンタジックで魅力あふれる最新作

約35年前に設立されたスタジオジブリは、すべて手描きで動きを表現する、伝統的2Dアニメーションの制作技法を特徴としており、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』、『となりのトトロ』といった作品のキャラクターは、同スタジオの看板的な存在として広く親しまれている

スタジオジブリの新作、劇場版『アーヤと魔女』(2021年8月27日(金)より全国ロードショー)は、ベラ・ヤーガ、マンドレーク、10歳の女の子アーヤという3人のキャラクターを中心に繰り広げられる、魔法や呪文が満載のストーリーで、これまでの2Dアニメーションとは異なるジブリ初の長編3Dアニメーション作品だ

2Dと3Dの両方のアニメーションのニュアンスに精通したFoundryのコンポジットツールNukeは、ジブリにとって初めての試みとなったこの作品の制作に幅広く活用され、その完成に貢献した。

『アーヤと魔女』の制作過程、そして未知なる領域へのチームの挑戦をNukeがどのようにサポートしたかについて、リードライティング/コンポジティングアーティストの髙橋氏とリードコンポジターの山本雄一氏に話を伺った。

Shot of Studio Ghibli's office

プロダクションプロセスの概要

『アーヤと魔女』では、髙橋氏、山本氏を含む6名の社内アーティストと外部の協力会社がルックデブ/ライティング/コンポジットを担当。宮崎吾朗氏の監督のもとで1054カットが制作された。

「この1054のすべてのショットにおいて、背景、キャラクター、シャドウ、エフェクトなど、Mayaからエクスポートした各レイヤー素材をNukeで合成し、最終画を作成しました。映画館でのスクリーン上映を意識しながら最終的な画作り、カラーコレクションを行い、Nukeからアウトプットした画を監督がチェックして、承認されればそのまま上映されるというプロセスでした。」と髙橋氏。

チーム全体でのNukeの使用については、「プロジェクト全体を通じて、ライティングとコンポジットをそれぞれ別のアーティストが担当することがよくあった」というが、Nukeにより、そうしたチーム内のコラボレーションも問題なく進んだ

髙橋氏は、「Pythonで作成したテンプレートを、ボタンひとつでプロジェクト全体で共有できたのは非常に助かりました。おかげで、どのアーティストが作業しても一定のルールに基づいてコンポジットを組み立てることができ、作品全体で一貫したルックを維持することができました。」と話す。

このクリエイティブなコラボレーションプロセスの詳細について、リードコンポジターの山本雄一氏は次のように説明する。

「シークエンス全体のバランスを整えるうえで、Nukeでライティング調整を行えるように、DCCツールでのレンダリング時にコンポジットで必要な要素を自動的に出力するツールを開発し、キャラクターや背景、その他要素に分けられたレイヤーを、さらにAOV(Arbitrary Output Variables)で細かく分けて出力できるようにしました。」

Shot of AOVs working in Nuke on Ghibli's Earwig and the Witch

山本氏によれば、コストを抑えながら高いクオリティを維持することも重要な課題の一つであったという。「Nukeでマルチチャンネルの再構築をテンプレート化し、AOVを使ってReLight、Cryptomatte、STmap、ZDefocusなどのツールでショットを処理することで、レンダリングコストを下げて様々なアプローチをすることが可能になり、結果的にシークエンス全体のクオリティの向上にも繋がりました。

Quote from Yuichi Yamamoto, Lead Compositor, Studio Ghibli

また、あらゆるプロダクション同様、厳しい時間的制約への対応も求められた。「素材のレイヤー数が膨大な量だったため、ディスクの転送速度も重要なポイントでした。プリレンダリングと高速ローカルディスクへのローカリゼーションにより、イテレーションが容易に行えたこともクオリティの向上に役立ちました

3Dへの挑戦

初の3D長編作品において、特に工夫を要したシーンやシークエンスはどのようなものだったのか。

「マンドレークの感情表現については、様々なアプローチが必要でした。壁にマンドレークの目が赤く浮かび上がるシーンでは、目のイメージを形にしていくのに、Nuke上でWarpやプロジェクションを使って様々なバリエーションのルックを用意し、監督のイメージに近づけていきました」と山本氏

「マンドレークのその他の感情表現についても、Nuke上で色の印象やエフェクトの見え方をテストして、様々なバリエーションを提案することで良い結果が得られました。」

Still from Earwig and the Witch, Studio Ghibli

そうしたシーン、さらには作品全体にわたって新たに導入された合成テクニックについて、ライティング/コンポジティングアーティストの髙橋氏は次のように説明する。

「シークエンスのリファレンスとなるキーショットの背景のライティングのバランスを調整する際に、NukeとMayaを行き来する回数を減らすように努めました。」

「各ライトのCG素材を一度レンダリングし、その時にColorやIntencityなどの情報をファイルに書き出しておきます。Nukeでbeautyを再構築し、書き出した情報ファイルを読み込みました。Grade ノードのGainとMultiplyの値を調整することでColorとIntencityをコントロールし、監督の承認を得た後でNukeからライトのColorとIntencityの情報をファイルに書き出して、それをMayaにインポートしてライトの情報を更新しました。

Nukeの優位性

『アーヤと魔女』の制作を支えたNukeの機能として、Cryptomatteを使ったカラーコレクション、Roto、AOVマテリアルを挙げた山本氏は、こうした機能がシーンのクオリティを高めるうえで非常に有効だと考える

「Nukeの一番の強みは、3Dシーンでコンポジットが行えることです。DCCツールとカメラを共有し、.abcや.fbxなどのオブジェクトを読み込んでNukeで3D環境を作ることで、DCCツールでの作業に戻ることなくスピーディーなイテレーションが行え、効率的なワークフローを実現することができます。

Earwig and the Witch in Nuke

10年以上にわたりNukeを使用してきた髙橋氏は、「長年にわたるNukeの使用経験の中で、実際に様々な機能を利用してきましたが、数ある機能の中で便利なものを1つ挙げるとすれば、それはノード共有です」と話す。「この作品においても例外ではありません。共有されたノードをショットにコピー&ペーストするだけで、すぐに調整を始めることができるのは大きなメリットです。この『瞬時』というのが肝心なところです。

Nukeによる作業の自動化について、「Nukeは、Pythonやエクスプレッションなどを駆使して計画的にシーンを構築することができ、手動で行う必要のない作業を半自動化することができます。」と髙橋氏

「その結果、アートワークに集中する時間が増え、不要なミスを減らし、プロジェクト全体で一貫した品質を確保することができます。今回のプロジェクトでは、1,000以上のショットをNukeでHDR上映用に再調整する作業を2ヶ月ほどで一人で行いましたが、これはNukeでなければ実現できなかったと思います。」

Quote from Mamoru Takahashi, Studio Ghibli

3Dアニメーション制作に最適なツール

プロジェクトの規模に応じて人材とコンピュートの両リソースを変更するなど、柔軟な調整が必要な現代のアニメーション制作においては、現場のセットアップやワークフローにツールを適応させることが必要だ。

こうした認識をもとに、『アーヤと魔女』では条件を満たす最適なツールとしてNukeを採用する。髙橋氏は、「Nukeは、プロジェクトの規模や環境に応じて柔軟に対応することができます。外部と共有すべきルールや時間的制約があっても、それに合わせた環境を容易に構築できるので非常に助かります。また、作業過程で得たちょっとした工夫やアイディアを活かしてカスタマイズを行うことで、作業を最適化ができるのは私にとっては大きなメリットです。」と話す。

また、山本氏はこの点に関して、NukeがVFXやアニメーションの分野で広く使われていることを挙げ、さらに次のように話す。「Nukeは、日本国内だけでなく世界的に3DCG長編アニメーションの制作現場で実績があり、多くのプロダクションがNukeを採用しています。今作品のように制作チームの編成からスタートする場合、Nukeを活用したワークフローをよく理解している優秀なアーティストが多くいることで、大きなメリットがあります。」

 

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