ジュニアコンポジターに必要なスキルとは?

ジュニアコンポジターという夢の仕事に就いたばかりの人も、たくさんの求人広告に目を通してはいるものの、まだ将来の見通しが立たないという人も、是非この記事を参考にしてほしい。

VFX業界でのジュニアコンポジターというポジションは、けしてキャリアの行き詰まりを意味するものではないことを知っておかなければならない。むしろ、経験を積み重ねて、後々役立つスキルを身につける機会が得られる。このポジションの活用次第で、その後のキャリア形成に大きな影響が生じる可能性もある。

この記事では、優れたジュニアコンポジターになるためにはどうすればよいか、そして、VFXスタジオが何を求めているかについてご紹介する。重点を置くべきテクニックについて理解し、効率的に作業を進めるためのヒントを得ることで、クオリティの高いコンポジットを実現することができるようになる。

壁を乗り越えるためには、どのようなスキルが必要なのか。さっそく見てみよう。

スクリプトの整理

まずは、スクリプトの構成や動作に目を向けてみよう。これは非常にシンプルなことだが、良いコンポジターになるうえで大きな意味を持つ。学生や新卒者であれば、おそらく少人数での作業に慣れていて、体制や組織といったものが優先されないので、スクリプトを共有する必要はない。しかし、大きな会社で働くとなると状況は異なり、何百人ものアーティストによる共同作業もよくあることだ。ひとつのショットが部門間を行き来し、携わるアーティストが複数にわたることも珍しくない。そのため、誰が見てもわかりやすく、問題点を迅速に把握して変更が行えるように、スクリプトをきちんと整理しておく必要がある。

 

visual language

では、スクリプトをわかりやすく整理するにはどうすればよいのか。ノードの配置や接続を見て、ビジュアル・ランゲージを共有することだ。その結果、スクリプトを用いた作業が効率的に行えるだけでなく、他のアーティストとの共同作業もやりやすくなる。企業ごとに独自のビジュアル・ランゲージがあることに注意するべきだが、そのうちに、それぞれの企業における特性がわかるようになるだろう。手始めに、常にBパイプをスクリプトの中心に右側にマスク、左側に追加エレメントを配置してみよう。スクリプトで作業を行うあらゆる人にとって理解がしやすくなり、トラブル時にはノードグラフを俯瞰すれば、どこに問題があるのかを容易に判断することができる。こうした概念の基本的な理解と、その重要性の認識が、スクリプトの開発と改善に役立つ。

スクリプトを構築する際には、モジュール化の概念を活用することも重要だ。モジュール化とは、スクリプトを Tracker ノードや  Grainノードなどの固有のツールを含むセクションに分けることをいう。モジュール化することで、コンプのセクションの無効化/有効化が素早く行え、その効果を比較することができ、トラブルシューティングや作業評価に役立つとともに、必要に応じてスクリプトを分割しやすくなる。また、重複するツールを簡単に確認できるという利点もある。たとえば、スクリプトが複雑で複数の領域にGrainノードが適用されてしまっている場合、不要なノードを見つけ出すことができるというわけだ。

modularization

モジュール化により、複数のノードを統合し、単一のGrainノードを前景エレメントに使用して、それを背景に統合するといったことが行える。それだけではない。エフェクトやノードを適用するたびに、もとの画像に何らかの形で手を加えていることになるが、コンポジットアーティストとしては、できるだけオリジナルの状態を保つようにするべきだ。モジュール化する習慣を身につければ、時間を節約し、柔軟性を高めることができるうえ、スクリプトの完成後に修正が必要になった場合、前もってモジュール化しておくことで、変更が生じても慌てずに迅速に対応することが可能だ。

綿密なショット計画

やるべきことだけでなく、やってはいけないことについても触れておこう。よくある間違いは、すぐにショット作業に取り掛かることだ。優れたコンポジットを作成したいなら、時間をかけてショット計画を立てることだ。現場で評価されるのは、たとえ短い時間であっても、やるべきこと、ショット作業で起こりうる問題、理にかなったアプローチ、予測すべき変更等について綿密に計画し、いかにクオリティの高いショットを作り上げることができるかに注力できる人材だ。作業対象のショットについて、考えるべき事柄を下記に挙げてみよう。

  • 最適なワークフロー
  • エッジの処理
  • スクリプトの構成
  • 起こりうる変更
  • キーイングが必要な場合、最適なキーイング方法
  • 選択した方法でキーイングした場合に起こりうる問題

ジュニアアーティストが犯しがちなもう一つの間違いは、受け取ったフォーマットで作業を行わないことだ。納品フォーマットに合わせて最初にショットを再フォーマットしてしまうと、トランスフォームの調整やその後作成したものは全てReformatノードの変更に影響を受けるため、フォーマットが変更された場合に、再度更新を行ってもうまくいかない。Reformatノードがいちばん上にあると、すべての流れが変わってしまうのだ。作業中のモジュールの一番下にReformatノードを配置したほうが、調整やロジックに影響を与えることなく修正を加えることができる。異なる映像やフォーマットを扱うときには、このことを覚えておくべきだ。取り込んだアセットやテクスチャもフル解像度で作業することができるため、結果的に元の画像に必要以上の手を加える必要がなくなる。

Pro Tip 1

バウンディングボックスの調整については企業によりけりだが、特別な理由がない限り、効率性維持の観点から行うのが一般的だ。これを行わないと、不要なピクセル情報やデータを大量に処理することになり、結果的にコンプの処理速度が低下して作業効率が落ちる。Mergeノードを使用するときは、バウンディングボックスのマージ方法に注意し、スクリプトにどのように組み込むかを判断しなければならない。

チャンネルの活用とフィルタリング

制作現場では、多様なチャンネルをひとつのファイルに格納することができるマルチチャンネルEXRファイルがよく使用される。ファイルに格納されているチャンネルにアクセスすることで、作業の際に必要な情報を取得することが可能だ。まず最初に、チャンネルに目を通して、アルファの重複、重複データ、RGBチャンネルを使用したモノクロ画像などの不要なものがないかどうかを注意深く確認する必要がある。

不要なチャンネルは分離し、扱うレイヤー数を削減できるShuffleノードやCopyノードを使用して削除すれば、作業をスピードアップし、作業手順をより詳細に把握できる。チャンネルの扱い方を理解し、クリエイティブに使用してコンプ全体を通してデータを維持することで、柔軟性が高まりより迅速な作業が可能になるうえ、スクリプトの整理にも役立つ。

Pro Tip 2

もう一つ、ジュニアコンポジターとして心がけておくべきことが、フィルタリングだ。コンポジットでは、イメージに変更を加えるたびにフィルタリングが発生する。ほぼすべてのオペレーションで発生するフィルタリングを避けることはできないが、元の画質をできる限り維持する必要がある。

 

filtering

フィルタリングを減らすためにはノードの連結が重要だ。どのノードを連結し、どのノードを連結しないかを常に考えることで、画質の維持を図ることができる。スクリプトをすぐに参照できるように、連結ノードのToolSetを作成することをお勧めする。

コンポジットの基礎ー写真、光、数学

写真と光は優れたコンポジターの基礎であることを忘れてはならない。写真、色、光といった原則を理解していないアーティストは多く存在するが、これらの原則は優れたコンポジターの基本であり、Nukeでのあらゆる意思決定やアクションの指針となる。

最終的な映像のリアリティは、写真を撮影したときにどのような現象が起きるか、光が物理的空間とカメラの間でどのように相互作用するかという物理学的な知識と理解に直接関係する。ジュニアコンポジターの仕事は、シーン内の全てのものを同時に同じカメラで撮影されたように見せることだ。

color, brightness, contrast

まず、色、明るさ、コントラストといった異なる要素をよく見て、一つに統合する必要がある。コンプは常に、物理的に正しいことが基本でなければならないが、同時対比の法則が示すように、人間の目がいかに惑わされやすいものであるかを認識することがきわめて重要だ。物理的に正しくないものに自分の目が騙されていることに気づかなければ、コンプにおいて正しい判断ができるはずがない。

また、カメラで撮影したかのうように複数の要素を統合するためには、カメラの基本を知っておくことも重要だ。カメラのISO、シャッタースピード、絞りの操作などについての知識を持つべきだし、これから学び始めても遅くはない。ショット分析を行う際に、輝度やモーションブラー、被写界深度、カメラのアーティファクトなどを理解するのに役立つだろう。

Pro Tip 3

作業中のショットの被写界深度のタブは開いたままにしておく。被写界深度は距離の2乗に比例するので、カメラから被写体までの距離を倍にすると、被写界深度は4倍になることに留意しなければならない。コンポジットアーティストは、常に距離とサイズの関係を扱うことになるため、遠近法についても頭に入れておく必要がある。実世界で、そしてカメラのレンズを通して、距離とサイズが互いにどう影響し合うかについて理解を深めておくと良いだろう。物体が多くのものと重なり合いながらこちらに向かってくるといったシーンでは、状況に応じて適切にエフェクトを再現する能力がなければ、リアリティある映像表現はできない。

Depth of field

レンズフレアとアーティファクトについては、しっかりと頭に入れておこう。イメージセンサーの露出オーバーによってレンズフレアが発生すると、通常、レンズアセンブリに多重反射を引き起こし、アーティファクトが複数あるように見えてしまうことがある。光源が遮られたときや同様の状況が発生すると影響を受けてしまうので、レンズフレアの手前に動くものがないように注意しなければならない。通常はレンズでレンダリングされるCGでレンダリングパスのような要素と、実際のレンズで撮影された要素を合成する場合、実際のレンズでは完璧な結果が得られないため、合成のプロセスに配慮が必要だ。

優れたコンポジットアーティストには、芸術的センスだけではなく数学的センスも重要だ。コンポジティングは視覚的数学だ。なぜその操作を行うのか、どのように行うのか、いつ行うのか、その目的は何かを理解することで、情報に基づいた決定を行い、適切なタスクに適切なツールを選択することができるようになる。

Pro Tip 4

知識は最大の財産

ジュニアコンポジターとしてキャリアをスタートする際、自分の役割を最大限に活かし、さらに才能を発揮するために重要な事柄についてご紹介してきた。綿密にショット計画を立てて、スクリプトを整理し、モジュール化やビジュアル・ランゲージの概念を活用すること。自身のワークフローを管理し、バウンディングボックスやチャンネルを上手く利用すること。ノードを追加する際は十分検討し、フィルタリングや修正の可能性まで考慮すること。

リアルな映像表現を実現するために、Nukeの視覚的数学の理解と、カメラの仕組みや光の作用の修得に全力を尽くすこと。批判的思考と芸術性を融合し、あえてスクリプトにとらわれずに発想を広げてみよう。

Advice from Chris Wetherly

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