先史時代の3DペットTuckiのメイキング

Image courtesy of Andreas Feix

Industrial Light & Magic デジタルコンポジター Andreas Feix

新型コロナウィルスのパンデミックにより誰もが隔離のため自宅待機を余儀なくされる中、仕事以外のクリエイティブな活動に時間を使うアーティストがいたのも不思議ではありません。

そうした中で生まれたのが『Tucki』です。ペットのTuckiの日常的な場面を捉えた映像クリップ集ですが、着目すべきは、自宅や近所で撮影した映像にデジタルで作られた恐竜のTuckiを合成している点です。

現在進行中のこのプロジェクトは、困難を乗り越えるための糧としてだけでなく、さまざまなテクニックやワークフローを試す場として非常に大きな意味を持っています。

Geometry of 3D dinosaur

Tuckiの誕生

実はTuckiは、隔離中の私のもう一つの楽しみとなっていた、可愛らしい動物のビデオを鑑賞することからインスピレーションを得ました。猫と一緒に育った私にとって、隔離された環境下でデジタル映像の中の生き物の存在が癒しとなったのです。

そうした映像の中で繰り返し描かれていた、保護動物たちが人間との絆を深めていく心温まるストーリーは、動物の行動を知るきっかけとなっただけでなく、作品のシナリオを考える上でアイディアの土台を築く重要な要素となりました。個人的に恐竜が好きなこともあり、最終的に先史時代の保護動物をコンセプトにすることになったというわけです。

隔離期間中に一時休暇を取得し、初期コンセプトを発展させて大急ぎで3Dアニメーションのアイディアをまとめ上げ、実際のプロジェクトとしてスタートさせました。保護直後からの恐竜の自宅での日常の風景を撮影した、ソーシャルメディアでよく見かける典型的な動物コンテンツのパロディのようなものです。

3D model breakdown of Tucki the dinosaur
Full 3D render of Tucki the dinosaur

恐竜はヘテロドントサウルストゥッキという実在種をベースにしていて、Tuckiというニックネームの由来にもなっています。牙や羽毛などのユニークな特徴のおかげで、一般的な恐竜をキャラクターとするよりも個性が際立ちました。ルック開発については、リアルな表現を実現するために、たくさんの骨格資料やパレオアートを参考にしましたが、特に、著名アーティストであるTyler Keillor氏による胸像3Dモデルは大きなインスピレーションの源となりました。

しかし、テスト撮影の準備が整った頃に一時休暇が終わり、仕事に戻らなければならなくなったため、すぐにプロジェクトをオープンエンドの映像クリップ集に変更しました。その結果、プロセス全体の柔軟性が高まり、大きなプロジェクトを完成させるプレッシャーからも解放されました。オリジナルのアニマティックは、制作中のクリップのベースとして使用することもあります。

さらに、このプロジェクトはほとんど予算をかけずに計画されたので、サンクコストのリスクを軽減しつつ、地に足のついた作品に仕上げることができました。使用したデジタルカメラは友人から借りたものですし、最大の投資は、クロムボールや三脚、トラッキングマーカー用のチェッカーテープなど、オンラインで購入した機材です。ロケや自宅での撮影も一人で行いましたが、撮影とセット内での人形の操作を同時にこなさなければならないのが少々大変でした。

俄仕立てに見えますが、カメラの動きはリハーサルを重ねて何度も撮影し、後のVFX作業に最適なテイクを選びました。セットを変える度にクロムボールやリファレンスを撮影し、撮影環境を再現するときのために可能な限りロケ地を計測していたので、傍から見ている人は相当困惑したでしょう。

Nukeの活用

Nukeについては、当初、コンポジティング用としか考えていなかったのですが、その役割は制作中に徐々に拡大していきました。

仕込み用にNukeを導入したことで、プロセス全体が大幅に効率化されました。プレートのインポート、ディストーション除去、マッチムーブを一度に行え、コンポジット以外の部分については後でクリーンアップすることもできます。レンズ設定は撮影中一貫して保たれるので、レンズ補正のセットアップをスクリプト間で簡単に共有・再利用し、リファレンス用の小さなライブラリを構築しました。

マッチムーブは、より正確なソリューションを確保するために主にカスタムトラックを使用し、難しい状況では自動化と組み合わせて行いました。

その後、セットをデジタルに再構築する上で、プリミティブを使ったプロキシジオメトリと、点群データをベースにしたオーガニックメッシュの両方を作成できる柔軟性が非常に役立ちました。さらにそれを3ds Maxにエクスポートしてアニメーションを行い、ジオメトリやプロジェクションの技術によって抽出したサーフェスのテクスチャを、CGのライティングに利用しました。

また、トラッキングデータとジオメトリは、トラッキングマーカーや恐竜のスタンドインの除去といったクリーンアップや必要な準備作業で重宝しました。クロムボールの画像も同様の手法でNukeでスティッチしてつなぎ合わせ、パノラマ環境を作成しました。

さらにNukeは、Tuckiのサーフェステクスチャの作成においてもユニークな役割を果たしました。

まず、MudboxでさまざまなクスチャパターンとRGBマットをスカルプトにペイントして小さなエレメントライブラリを作成し、法線、ディスプレースメント、オクルージョンなどのサーフェスマップとともにNukeにインポートしました。立体視制作のワークフロー同様に、個々のUVタイルの設定を異なるビューで行い、すべてを同時に読み込んで合成しました。

Alembicでインポートしたモデルのサーフェスデータも追加して、すべてのエレメントの準備が整った段階で、サーフェステクスチャをプロシージャルに合成し、同時にシェーダマップのクリーンアップと追加処理を

コンプ内の3  

行いました。この方法には、歯や爪などの異なるエレメント間でテクスチャの一貫性を保ちながら、コンポジティングアーティストのような感覚でレンダリングの前後に変更を加えることができるメリットがあります。

AlbedoやDiffuseカラーパスなどを使用してコンプ内の3Dレンダリングに加えた一般的な変更は、後でオリジナルのテクスチャにコピーして、レンダリングの次のイテレーションにリビジョンとして直接組み込むことができます。

リアリティの表現

Tuckiの一般的なワークフローは、これまでのプロジェクト、特に『Citipati』同様の、3Dでのジェネラリスト的なアプローチを重視し、2Dとその後のコンポジティング作業に重点を置いたものです。

リギングとアニメーションには3ds MaxのCATモジュールを使用しました。筋肉や組織の動きを表現するために膨大な二次的ディテールのプロシージャルアニメーション化、尻尾の動きの自動化を行いました。ホームビデオの自然さを保つために、キャラクタの動きはアニメーション中に即興で作ることが多く、後から予期せぬディテールが生まれたり細かい手直しを加えたりしました。布などのシミュレーションについても主に3ds Maxで行い、Houdiniも多少使用しました。

ライティングとレンダリングにはV-Rayを使用しました。適切なライティング設定を素早く行うために、Nukeのクロムボール撮影画像とテクスチャをセットのジオメトリに投影しました。これにより、主な光源にV-Ray Lightを使用しながら、ライティングとマテリアルのインタラクションをより的確に実現することができました。

V-Rayでのレンダリングついては、コンポジティング時の実用性を重視したワークフローで設定を行いました。3Dレンダリングは個々のライティングとデータパスに分割し、サブサーフェススキャタリングはコンプに追加する個別のエレメントとしてレンダリングを行いました。すべてパーソナルワークステーションで計算、管理しなければならないので、一定のクオリティレベルを維持しながら、レンダリング時間を短縮する必要があったためです。

Full 3D Nuke render of Tucki the dinosaur

ショットの合成に関しては、合成前の作業量が多かったことに加えて、再利用を可能にし、潜在的な問題を回避するために、新しいことを試みる余地を残しつつ、プロとしての経験を生かして作業を円滑に進め効率化を図ることが主な目的でした。

合成作業では最初から、グレインの追加やアーティファクト、データ変換、その他の変更など、多くの個別プロセスを再利用可能なモジュール化、テンプレート化したことで、全く新しいコンプスクリプトをほとんど手間をかけずに構築できるようになりました。主なツールの一つが「Light Mixer」というグループテンプレートで、V-Rayでレンダリングした精細な画像をベースにしています。

これは、CGエレメントの個々のパスをすべて取り込んで最終イメージに合成するツールで、簡単なスライドをいくつか使うことでマテリアルやライトのプロパティを完全にコントロールでき、プレビューモードでは異なるプロパティを個別にチェックすることもできます。このように、作業の柔軟性が高まったことで、CGエレメントを再レンダリングする必要がほとんどなくなりました。

いくつかのエレメントは、データパスを使って最初からNukeで直接作成しました。目の反射については、Nukeで設定されたジオメトリに基づいてインタラクティブなパノラマをレンダリングすることで、納得できる表現ができたと思います。また、グランジマップやdirtパターンなどの新しいテクスチャを作成し、異なるショット間での共有やテンプレート化して再利用ができるようにしました。

恐竜にまつわる合成作業だけでなく、示唆的なスマホ広告を作成したり、ホワイトチョコレートを一般的な茶色に着色したりといった、ちょっとした2D作業も行いました。

Nuke nide graph UI shot of creating Tucki

Tucki のこれから

空き時間を利用したプロジェクトなので、いつまで続くかわからないといった不確実さはありますが、公開された作品が総じて好意的に評価されていることに励まされ、モチベーションになっています。

まだまだアイデアは尽きませんし、オリジナルのアニマティクスが残っているので、もしかしたらそのうちに最初のコンセプトが意図した通りに完成するかもしれません。「生命は、新たな道を見つける」ですからね。

 

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Andreas Feixについて:

Andreas Feixは、主にコンポジター/ジェネラリストとして活躍するVFXアーティストである。2009年〜2015年までFilm Academy Baden-Wuerttembergで学び、卒業作品の短編映画『Citipati』は、アニー賞とVESアワードを受賞。2008年以降、映画、テレビ、広告の分野で、『ゲーム・オブ・スローンズ』、『スター・ウォーズ』、『ジュラシック・ワールド』などのフランチャイズ作品を含むさまざまな作品制作に携わる。

現在、ロンドンのIndustrial Light & Magicに勤務。

Andreas Feix, Industrial Light Magic