アーティスト スポットライト:Clara Chan

Image courtesy of Sony Pictures Imageworks

アートとサイエンスを駆使してCGアニメーションを制作する錬金術師

現在、バンクーバーのソニー・ピクチャーズ・イメージワークス(SPI)でCGスーパーバイザーを務めるChan氏は、これまで、NASAのジェット推進研究所でソフトウェアエンジニアリングに従事するなど、より技術色の強いキャリアを歩んできた。エンジニアリングからメディア/エンターテイメント、特にアニメーションへのキャリア転向のきっかけを聞かれると、Chan氏は即座にこう答えた。

「私は昔からアートや数学、科学が大好きでした。大学でコンピューターサイエンスを専攻したのは、就職の際に有利だと思ったからです。しかし、ジェット推進研究所(JPL)でソフトウェアエンジニアとして働き始めると、素晴らしい職場ではありましたが、もっとアーティスティックでクリエイティブなことがやりたくなったのです」。

「当時、『トイ・ストーリー』や『ジュラシック・パーク』などの映画が出てきて、それに刺激されてアニメーションやVFXに興味を持つようになりました。それで、学校に戻って映画制作や3Dアニメーションを勉強し、SPIで働くことになりました」。

2001年にカリフォルニア州カルバー・シティのスタジオでキャリアをスタートさせたChan氏は、当初、シェーダーライティング、ライティング、ルックデベロップメントを担当。その後、2015年にはバンクーバーオフィスに移り、長編アニメーション映画『コウノトリ大作戦!』のライティング/ルックデベロップメントチームのスーパーバイザーを務めた。

CG characters from Hotel Transylvania film

以来、アカデミー賞ノミネート作品の 『モンスター・ハウス』や『フェイフェイと月の冒険』などの大ヒット作をはじめ、『モンスター・ホテル』全3作、『アメイジング・スパイダーマン』とその続編、『コウノトリ大作戦!』など、映画の実績を重ねている。

自身のキャリア、アニメーションにおけるコンポジティングの役割、FoundryのコンポジティングツールNukeが、アニメーションプロジェクトの背後にあるクリエイティブなプロセスをどのようにサポートしているかについて、話を聞いた。

Q:CGスーパーバイザーとしての一日の流れを教えてください。

A: ショット制作の工程では、15〜20人のライティング/コンポジティングアーティストからなるチームを管理します。私たちの仕事は、スクリーンに映し出される最終ショットを作成することです。毎朝、全員のショットを確認してアーティストにフィードバックを行います。その後、チームのショットをVFXスーパーバイザーが確認してフィードバックをし、それを修正反映する。その繰り返しです。その合間に、さまざまな問題の解決を図るためのミーティングや、タスクの調整、アーティストのニーズへの対応、クライアントレビューへの参加などに追われ、のんびりしている暇はありません。

Q: エンジニアとしてのバックグラウンドは、アニメーションプロジェクトでのクリエイティブなアプローチにどのような影響を与えていますか?

A:アニメーション制作は、技術的なプロセスとクリエイティブなプロセスの融合です。私たちは想像力を無限に膨らませ、誰も見たことのない映像を作りたいと思っています。しかし、それを実現するためには、多くの人の技術的知識が必要です。アーティストが使用するツール開発を行うエンジニアと効果的なコミュニケーションを図るうえで、技術的なバックグラウンドを持ち、同じ言語で話せることは非常に役立ちます。また、ソフトウェアエンジニアとしての経験は、課題解決に向けた論理的な思考力を鍛える意味においても助けになりました。技術的な課題であれクリエイティブな課題であれ、ロジックを利用することで問題をタスクに細分化し、処理することができるのです。私は、正に両脳を使うこの仕事がとても気に入っています。

Scene from the film Over The Moon

 

Q:これまで手がけたものの中で最も気に入っているプロジェクトと、その理由について教えてください。

A: たくさんの素晴らしいプロジェクトに携わってきたので、選ぶのは本当に難しいのですが、『フェイフェイと月の冒険』の美しい映像を家族と一緒に大画面で見たことは、私にとってもっとも誇らしい瞬間でした。大好きな中国の伝説をベースにしたこの作品は私にとってとても思い入れのあるもので、作中でも作外でも多くのアジア人と制作に関わることができたのは貴重な機会でしたし、Glen Keane氏と連携を密にしながら共にビジョンを実現できたことも、とても刺激的でした。努力が実を結び、この作品がオスカーにノミネートされたことは本当に光栄なことです。

Q:Nukeはすべてのプロジェクトで使用されているのでしょうか。Nukeによってどのような課題が解決できるのでしょうか。

A:もちろんです。Nukeは、SPIの全スタジオで使用されている主要コンポジティングソフトウェアです。Nukeによって制作効率が格段に向上しますし、各プロジェクトに合わせたカスタムツールを柔軟に作成することができます。

Hotel Transylvania characters in the swimming pool

 

Q: 実際にNukeを使用されて、どのような感想をお持ちですか。

A: SPIでは当初、他のコンポジティングパッケージを使用していたのですが、私がNukeを学び始めたのは、『モンスター・ホテル』の制作時だったと思います。Nukeは非常に直感的に使用できるので、移行はとてもスムーズでしたね。見よう見まねで学び徹底的に質問しながら、理解を深めていきました。また、オンラインチュートリアルが普及し始めた頃だったので、チュートリアル動画をたくさん見たのも役立ちました。SPIのパイプラインでは、ライティングにKatana、コンポジティングにNukeを長年使用しています。

Q: Nukeの機能の中で最も便利だと思うものと、その理由を教えてください。

A: Blinkスクリプトは、制作現場でアーティストが使用できるカスタマイズツールを作成するのに役立ちます。また、Pythonの統合とGPUの使用も効率化のために非常に重要です。私たちが目指すスタイル化されたルックの多くはプロジェクションを使用しますので、これも欠かせません。

Spiderman

 

Q:マシンラーニングのトレンドは今後どのように進化し、ワークフローをサポートしていくと思いますか。

A: マシンラーニングによって、退屈で時間がかかるあらゆる反復作業がなくなることを期待しています。より効率的な制作進行が可能で、制作規模の拡大が図れるのであれば、それは歓迎すべきことです。クリエイティブな部分において、マシンラーニングがどのように役立つのか非常に興味を持っています。SPIは、『スパイダーマン:スパイダーバース』でマシンラーニングを使ってインクラインを作成しましたが、そうしたアイディアをぜひ他にも広げていきたいと思っています。

Q: Nukeの購入を検討している若手アーティストのために、アドバイスはありますか。

A: Nukeは、多くのスタジオで使用されている標準ツールですので、ぜひ時間をかけて習得してください。近道はありません。やればやるほど上達します。だからこそ、クリエイティブであり続けること、学び続けることが大切なのです。

Q: VFX業界を志すアーティストに、何かアドバイスはありますか。どのようなチャンスを探るべきでしょうか。

A: 足掛かりとして、インターンシップはいい方法だと思います。大手スタジオの多くがインターンシップを実施していますが、非常に競争が激しいと思います。インスタグラムやArtStationで作品を公開してみるのも良いでしょう。SIGGRAPHやSPARKなど、ジョブフェアを開催しているカンファレンスもたくさんあります。ファーストキャリアは必ずしも最終的なキャリアのゴールを決めるものではありませんから、学ぶこと、視野を広げることができる場所で働く機会があるのであれば、たとえそれが求める職種とは違っていたとしてもチャレンジする価値はあるでしょう。

Character in Times Square

 

Q: アニメーションにおけるコンポジットの役割について、どのようにお考えですか。

A: 特に『スパイダーマン:スパイダーバース』の成功の後、長編アニメ映画の主流作品においてスタイル化されたルックを用いることが多くなっています。観客は新しいものを求めているのです。パンデミックによって引き起こされた経済的困難の中で、誰もがより安価で、より良い作品制作を行う方法を模索しています。ライティングやレンダリングに比べ、合成処理ははるかに高速で行えますから、作品制作において重要な役割を担っています。コンポジティングでルックを作成することで検討作業を迅速に進め、効率的なアートディレクションを行うことができます。

Clara Chan quote image

Q: 最近リリースされたNuke 13では、CopyCat機能のような、マシンラーニングのワークフローをサポートするために不可欠なAIRツールが導入されましたが、もうお使いになりましたか。

A: CopyCatはまだ使用していないのですが、紹介ビデオをいくつか見ました。とてもパワフルで、面倒な作業時間を削減できるのは間違ないでしょう。才能あるアーティストやエンジニアの手にかかれば、クリエイティブな使い方ができるはずです。

Q: 業界やコンポジティングの今後のトレンドで、特に期待しているものはありますか。

A:大学院時代からノンフォトリアリスティックレンダリングに興味がありました。新しいトレンドではありませんが、レンダリング技術の進歩は目覚しいものがあります。2 Dと3 Dを融合したアニメーションで、刺激的かつアーティスティックなビジュアルスタイルを作り出すことができる、新しいコンポジティング技術の開発を心待ちにしています。

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