Katanaによるアニメーションミュージックビデオのライティング

Image courtesy of Brazen Animation

革新的なKatanaのパイプライン統合の裏側

トラ、キリン、ヘラジカ、キツネ、ヒツジからなる最高にキュートなバンドThe Meepsが、初のミュージックビデオ『Love Louder』を公開した。このアニメーションミュージックビデオは、公開からわずか数ヶ月で、YouTubeでの再生回数が5400万回を超えた。

The Meepsプロジェクトの制作を担当したのは、テキサス州ダラスを拠点とするBrazen Animation。テクニカルルックデベロップメントリードのEthan Crossno氏とJessica Hogan氏に、Foundryのパワフルなルックデベロップメント/ライティングツール Katanaを活用したアニメーションバンド制作について、話を聞いた。

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Q: The Meepsプロジェクトのユニークな点、また、どのような課題があったのか教えてください。

EC: 短期間で完成させなければならないショットが90以上あり、キャラクターはファーに覆われていて、ライティングアーティストは各シーンの作業を迅速に進めなければなりませんでした。このプロジェクトは、アナモフィックレンズやフォーカスプルを使った巧妙なスタイルで、ライティングやコンポジットの作業はとても楽しく行えました。

JH: ルック的に、このプロジェクトは非常にユニークでした。監督が当初からイメージしていたのは、ブルームや露出オーバー/アンダー、それに伴うカメラのフレアや歪みなど、実写のカメラやレンズ風の表現でした。通常、CG作品では3Dで実現できる、いわゆる「完璧な」ライティングを優先するため、こうしたことは避けられるのが一般的です。

クイックカットが多く、そのため制作面では多くのショットをこなすことになりました。スケジュールを考えれば、作業とイテレーションに十分な時間をかけられるかが課題でした。

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Q: 本作のVFXとこれまで担当したプロジェクトとはどのような違いがありますか。

EC: 本作で構築した新しいツールやワークフローを今後のプロジェクトに活かすことで、より良い作品作りにつながると思います。シーンはかなり大きく、ファーに覆われたキャラクターが数多く登場するショットもありました。Katana導入前のツールでは、こういった大量のデータを含むシーンの作業は本当に時間を要していました。

JH: 主に、カメラFXというもので、フォーカスシフト、ブルーミング、フレア、色収差等を伴うレンズのブリージングですね。実際のカメラを向けた時には自然に起こることなのですが、バーチャルカメラでは忘れてしまいがちなことです。レンダリングではなく、コンポジットで可能な限りコントロールしたいと早い段階から考えていました。あるカメラで正しく見えても、実際の見え方としてベストとは限らないからです。レンダリングはイテレーションに時間がかかりますが、コンポジットなら短時間で仕上げることができますので。

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Q: 新技術の習得や開発に役立ったテクノロジーがあれば教えてください。

EC: Katanaのおかげで、私たちのライティングプロセスは本当にフレキシブルで、共同作業がしやすくなりました。そして以前よりもはるかに早くショットをセットアップできるので、シークエンスレベルでライティングを作成、制御可能になりました。それからNuke (Foundryの業界標準コンポジット/編集/レビューツール)のCameraノードのようなものを開発し、アナモフィックレンズ効果、グロー、ディストーションを全体的に適用して、シークエンスごとに微調整できるようにしました。

JH: カメラ FX の面では、監督がより現実的なアプローチに前向きであったとしても、ショットごとにルック を微調整できる柔軟性が必要でした。Nuke ではさまざまなノードと、カスタムメイドのグループノードでカメラを駆動するLiveGroup を作成し、これをよく使いましたね。これを使用してアーティストにベースラインを提供し、ショットごとに調整できるようにしました。Katana と NukeでLiveGroup を利用することにより、最小限の労力でチーム全員に変更をプッシュすることができました。

Q: 最も手間がかかったシークエンスやショットについて教えてください。

EC: あるダンスシーンを、一つの長いシークエンスとしてアニメーション化したのですが、Katanaのおかげで、簡単にこのシークエンスを複数のショットに分割し、ライティングすることができました。以前とは異なり、ファイルを大幅に削減し、シンプルに保つことができるようになりました。

 

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JH: ビデオの最後で、夕暮れ時、全キャラクターがふんわりした鳥たちと一緒に座っているショットがある のですが、ショット自体が長く、非常にカメラに近いところにファーで覆われたキャラクターたちが登場するため、レンダリングがきわめて難しいことがわかりました。Katana や Arnold の技術的な限界ということではなく、ファーのおかげで情報量が多すぎてのことです。そこで、それぞれのキャラクターの毛並みをキャッシュアウトして扱いやすくし、キャラクターレイヤーの分割方法を工夫して、パスごとに特定のフレーム範囲を設定しました。また、KatanaのビューアではGroomを非表示にして作業を行い効率化を図るなど、作業時間を大幅に短縮することができました。

Q: The Meepsビデオにおけるライティングとルックデベロップメントのワークフローと、Katanaの活用について教えてください。

EC: Katanaは、ライティングの扱い方を大きく変えるものです。The Meepsでは、キャラクターごとのライトリグやマスターライティングを作成し、シークエンス内の全てのショットに簡単に伝播させることができました。複雑な設定を共有する場合もコピー&ペーストするのと同じくらい簡単で、ほとんどをシークエンスレベルで処理できるので、アーティストはライティングに集中する時間が増え、レンダリングのデバッグにかかる時間を短縮できました。

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JH: ショット数の多い比較的短納期のミュージックビデオ制作は、スタジオ全体がKatanaへ移行する絶好の契機となりました。Katanaのおかげで、社内のルックデベロップメントリードが主な場面ごとのライトリグを作成し、ショットアーティストにプッシュする前に、マルチショットを想定したライトセットを早期に承認できるようになりました。

それからライトリグやレンダリングのグローバル設定にはLiveGroupをフル活用し、必要であればLiveGroup内の特定のライトリグや設定を変更し、一度ですべてのショットにプッシュすることができました。アーティストひとりひとりにマニュアル作業での変更を依頼する必要もありません。

似たようなショットは1つのファイルで作業できるように整理されていて、ショットアーティストはライティングはもちろん、レンダーレイヤーを設定して最終的に複数のショットを一度にレンダリングできるので、大幅な時間短縮を図ることができます。

Q: ライティングに関する主な課題はどのようなことでしたか。

EC:最大の課題のひとつは、本作がKatanaを使用した最初のプロジェクトであり、パイプライン構築までの時間が限られていたことです。毎週に渡るFoundryのサポートがあったからこそ、スムーズに立ち上げることができました。The Meeps には、ファーで覆われたキャラクターがたくさん登場し、一部の背景はかなり大規模なものでした。Katanaのディファードローディング機能とUSDのサポートにより、重いアセットを含むシーンでも待たされることなく、迅速に作業が行えました。

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JH:このプロジェクトでは、アートディレクターが細かなカラーキーを設定し、 意図する映像を明確に示してくれたのですが、3Dでは必ずしもカラーキー通りになるとは限りません。

例えば、華やかなカラーキーが使われている路地裏のショットでは、ひとつの建物をキーカラーに合わせようとすると、他が指定とまったく合わなくなってしまいました。そのショットでは、地面に周りの建物からの影を意図的に落としていたのですが、ライティングアングルによって、地面が完全に影になってしまうという問題が生じました。

後のNukeでの作業を考慮しながら、指定されたキーにKatanaのライティングをできるだけ近づけるように、Light Linkingを多用しました。地面の影はコンセプトアートに合わせてシャドーカードを作成し、ライティングの角度やカラーに合うように、必要に応じてそれぞれの建物にライトをリンクさせ、ディテールについてはその後 Nukeで調整しています。

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Q: ルックデベロップメントについてはどのような課題がありましたか。またどのようにその課題を乗り越えましたか。

JH: ライトリグをセットアップする際の主な課題は、提供されたコンセプトアートに合わせた画作りにまつわるものです。私たちの仕事は、アートディレクターのビジョンにできるだけ近づけることであり、キーライトと環境ライトを設定すれば終わりというような、単純なものではありません。

カラーキーはあくまで目指す方向を示すものであって、必ずしもシーンのライトを忠実に再現するものではありません。オブジェクトに当たるライトの色や角度の調整にはLight/Shadow Linkingを多用し、また、Arnoldでレンダリングを行っているため、Light Filterも活用しました。こうした機能を組み合わせて、キャラクターやセット、プロップの色や値、影を必要に応じて個別に調整しています。レンダリング結果を確認してから、Nukeでの作業をスタートさせることができたので、コンプでは多少手を加える程度で済ませることができました。

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Q: Katanaに搭載された機能のうち、The Meepsプロジェクトでもっとも役に立った機能について教えてください。

EC: これほど便利だとは思っていなかったのですが、オブジェクトのすべてのアトリビュートをいつでも追跡して確認できることです。Katanaではどこでどう設定が変更されたのか、一目瞭然ですので、テクニカルルックデベロップメントのリードとして、アーティストの作業シーンをざっと確認し、問題点をすぐに把握できるようになりました。

JH: LiveGroupは、高レベルのライトリグやグローバル設定などをコントロールできるため、非常に重宝しています。ボタンを押すだけで、チーム全員に変更をプッシュすることができます。

The Meepsは、私たちにとってKatanaを使用した最初のプロジェクトでした。習得には若干の時間が必要でしたが、経験を積み、VariableEnabledGroups と組み合わせてLiveGroupsを効果的に活用し、巨大なシークエンスにも取り組むことができるようになりました。

GafferThree ノードはライターにとって非常に使いやすく、設定、編集、表示、そしてライトとそのリンクに関する作業を大幅に効率化できました。私はLight Filterがすごく気に入っているのですが、Light Filter Referenceオプションを使うと、ライト間でのLight Filterの共有が簡単に行えます。さらに、動くキャラクターにリムライトを当てるなど、コンストレイン機能の使い勝手の良さは他のソフトウェアとは比べ物になりません。

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また、Nukeとそのノードベースのワークフローも気に入っていますから、当然、Katanaのノードグラフのオープンエンド性も気に入っています。シーンファイル全体を通してノードをコピー&ペーストできるというシンプルな操作性と柔軟性は比類ないものです。

Q: Katanaはこの複雑なプロジェクトを管理する上でどのように役立ちましたか。

EC: 技術チームは、アニメーションキャッシュ、サーフェシングパブリッシュ、モデルパブリッシュといったパイプラインの前工程から、特定のショットのすべてのコンポーネントを取り込むという、本当に素晴らしいワークフローを構築してくれました。おかげで、他のソフトウェアでは個々のショットの構築に何時間もかかるところ、シークエンス全体を即座にセットアップできるようになりました。さらに、開発したツールでは、取り込んだショットごとにGraph State Variable を作成してくれますので、ショットの切り替えも簡単です。

各シークエンスの基本的なライティング設定をテンプレート化してLiveGroupに保存し、より高レベルの変更を制御可能にすることで、ライター全員が同じ設定で作業を開始することができました。


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Q: Katanaの特に気に入っている機能について教えて下さい。

EC:マクロやツールを作成して、簡単にアーティストと共有できるのがいいですね。アーティストから「こんな機能が欲しい」という要望があると、すぐにマクロを組んで対応しています。こうしたツールを簡単に共有できることは、チームとしてのコラボレーションを後押ししてくれます。

JH: KatanaのVariableEnabledGroupsには、本当に助けられました。制作現場では、作業が進むに連れて、プロップの移動やセットドレッシングの追加、特定のアセットのサーフェシングのオーバーライドなどの変更要求が出ることがよくあります。

セットの地面にケーブルを追加するとか、ヤシの木を移動させるとか、ゴミ箱を少しだけ動かすといった場合に、一人ひとりのライティングアーティストに修正を依頼するのではなく、LiveGroupとVariableEnabledGroupを利用しました。Graph State Variableを切り替えると、該当するVariableEnabledGroupが有効となり、ショットに応じて必要な変更をロードできるように工夫しました。少しの工夫で人為的なエラーを大幅に減らすことができてとても助かっています。


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Q: 他のツールでは不可能なこと、あるいははるかに困難なことで、Katanaで実現できることはどんなことでしょうか。

EC: Katanaには、最初から大規模プロジェクトに対応できるツールや機能が搭載されていることが大きなメリットです。こうした機能をMayaのような他のDCCに統合しようとすれば、かなりの労力を要することになります。社内で開発されるツールや新技術もプロジェクト間で共有・改善され、進化を遂げていけるのも特長ですね。

JH: ノードベースであるKatanaは、非常に多くの点で便利だと思います。他の3Dソフトと比べて視覚的に分かり易く、色のついたBackdropでシーンを整理したり、シーングラフのどの位置からでもセットアップを把握することができます。そのためノードグラフで問題が発生している場所を正確かつ容易に見つけることができるので、本作においては、ルックデベロップメントリードとしてデバッグするのに重宝しました。

 

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Q: Katanaを使うきっかけとなった必須機能はありますか。

EC: 当初は、ショット間のライティングの共有、シークエンスレベルでの作業、複雑なライティング設定をアーティスト間で簡単に共有できるところに魅力を感じました。

JH: Katanaを導入した一番の理由は、シークエンスやマルチショットレベルで作業が行えることです。他のソフトウェアではいったんファイルが作成されると、変更が発生した場合にマニュアル作業でひとつひとつのショットファイルに対して修正を行わなければならず、多くのエラーや見落としが生じる可能性があります。一方Katanaでは、変更を1人の人間が行い、指定されたショットにプッシュアウトして瞬時に修正を済ませることができます。

Q: 既存パイプラインへのKatanaの統合を検討している人へのアドバイスはありますか。

EC: Katanaのサポートを活用することです。Katanaをパイプラインに統合するのに1か月強かかりましたが、彼らの助けがなければ実現できなかったと思います。

JH: Katanaは本当におすすめできるツールです、Katanaのおかげで制作環境は大きく変わりました。まだ使い始めたばかりですから、効率性や生産性向上のためにできることはまだまだたくさんあります。技術チームや、少なくともコードやツール作成に長けている人がいれば、何倍もの効果が期待できるでしょう。

Katanaはもともと素晴らしい機能を備えていますが、シーンにサーフェスやアニメーションのアセットを追加したり、レンダーレイヤーを設定したりといった、繰り返し実行する多くの作業はKatanaが得意とするところです。一旦プロセス構築のための必要な作業手順が分かれば、スタジオのニーズに合わせたカスタムツールを開発したり、効率化を追求する価値は大いにあると思います。

待ち時間を減らして、もっとクリエイティブに

Brazen Animationは、超高速で直感的、かつ拡張性の高い、強力なルックデベロップメント/ライティングツールKatanaを最大限に活用し、キャッチーな音楽と魅力的なビジュアルを融合した。Katanaをパイプラインに組み込むことでワークフローを効率化して時間を節約し、生産性を向上させることができた。今後もBrazen Animationの新たなプロジェクトで、Katanaやカスタム化されたツールやワークフローが活躍することを期待したい。

Katanaの詳細については下記よりご確認ください。

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