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VFX ソフトウェアのユーザビリティ − 変化を求められるVFX 業界

90 年代に取り残された VFX 業界

今日私たちの周りには、高度な映像技術によって作り出された驚くほど美しい映像が数多く存在しますが、既存のソフトウェアとそれらを日々使用するアーティストの間には、いまだ大きな隔たりがあります。作り出される作品が優れたものであるなら、ツールのクオリティが低くても問題ないように思われがちですがこれは大きな問題です。

他の業界ではどうでしょうか。より使いやすく直感的なインターフェースを採用し、高度なテクノロジーへのアクセスをシンプルかつ合理的にデザインしています。

VFX 業界においてはエンドユーザーを取り巻く環境を改善しようとする意識があまりにも低く、閉塞感が生じていると 3Delight の CTO である Aghiles Kheffache 氏は言います。

「これは業界にとって非常に大きな問題です。ユーザビリティという点においては、90年代からまったく進歩がありません。VFX業界の発展は技術者に委ねられているもかかわらず、ソフトウェア エンジニアの多くはその事に無関心であり続けているのです。」

他のテクのロジー産業の大半がソフトウェアのユーザビリティ向上を進める一方で、VFX 業界のソフトウェアの多くは扱いにくく、非常に複雑で操作が難しいうえ、ユーザーであるアーティストのニーズに応じていないと Kheffache 氏は言います。

VFX 業界はなぜこうした動きに追随することができないのでしょうか。

 

VFX Team

不透明な製品選択システム

携帯電話などの他の製品市場では、顧客はテクノロジーやソフトウェアを基準に製品を選択し、必要に応じて他製品に買い換えることができます。購入後に不具合や問題が生じた場合には、直接メーカーにフィードバックして製品の改善につなげたり使用をやめたりすることも可能ですが、VFX ソフトウェアでは実情が全く異なるのです。

Kheffache 氏は言います。「VFX業界ではソフトウェアの購入者と使用者が異なるケースが多くこれが問題の原因となっています。アーティストは使用する製品を自ら選択することができず、不透明なシステムで製品が選択され政治的な駆け引きの材料にされてしまうこともあります。開発側は実際の使用者からのフィードバックを得ることができないため、製品の改善サイクルが断ち切られてしまうのです。」

こうした環境が続く限りお粗末なソフトウェア製品がいつまでもなくなりません。

もう一つの要因は、ありとあらゆる機能を組み込もうとするソフトウェア開発のあり方です。より多くの機能を提供しようとするテクノロジー志向のプログラミング エンジニアが多く、望まれない機能の追加を繰り返すことでソフトウェアを不必要に複雑化してしまい、アーティスティックなプロセスを阻害して直感的に制御することを難しくしていると Kheffache 氏は言います。

「 less is more(より少なきは、より多きこと)」がイノベーションを阻害するどころかより促進するという 3Delightの掲げる理念が、VFX業界のソフトウェア企業にも徐々に浸透しています。

簡略化とユーザビリティ向上への基軸変更

3Delight は 10 年にわたり、基本的に Pixar社のRenderMan の設計動向に沿って調整を行いながら歩調を合わせるかたちで開発を進めてきましたが、Solid Angle 社が Arnold をリリースした際、より高速で使いやすい、アーティスト フレンドリーなレンダラの開発へと舵を切りました。

「Arnold の発表がきっかけになって、ベース API を含むすべてをスクラッチから作り直すことを決意しました。」Kheffache 氏は言います。「開発のあり方そのものを大幅に変更し、パラメーターの数を最小限に抑えることで最大限の柔軟性が実現し、ひいてはユーザーが抱える課題の解決につながると強く信じています。」

こうした設計理念の基軸変更は容易なことではありませんでした。製品を徹底的に見直し、既存ユーザーへの影響を考えながら一から改良を行うプロセスに4年もの歳月を費やしました。その過程で、研ぎ澄まされたシンプルな設計の中に美しさを見出したのです。

主要パラメーターはそのままに、ユーザーエクスペリエンスの向上を図るため、複雑な不要パラメーターの多くを簡略化あるいは削除しました。例えば、他のレンダラのようなライトやサーフェスなどの個々のエレメントのサンプルを別々のスライダーで調整する方法ではなく、グローバルスライダーで一度に行えるようにしました。

「結局、ユーザーが求めているのはスピードとクオリティです。それをそのまま形にしたということです。」

シンプルなユーザビリティを実現するのは容易なことではありませんが、開発を行うエンジニアとユーザーであるアーティストの双方にとって、大変有意義です。「技術的決定をする際に不要な情報を取り除くことができれば、すべてが明らかになり自然に答えを導き出すことができます。ここに妥協は存在しませんから非常に楽しい作業なのです。」

機能性を損なうことなくシンプルでユーザーにとってより使い易いソフトウェアに生まれ変わった 3Delight は、市場最速かつ最もパワフルなレンダラとして、VFX ソフトウェア開発において「 less is more(より少なきは、より多きこと)」の理念が実現可能であることを示しています。

 

Team in VFX

技術偏重からの脱却

それでも、アーティストやクリエイティブ ソフトウェアのユーザーを取り巻く環境の改善を実現するまでの道のりはまだまだ長いと Kheffache 氏は言います。ユーザビリティの向上はその大きな要因となりますが、過度な技術偏重からより直感的で使いやすさを追求する方向へと、ソフトウェアの開発理念のシフトチェンジを図るには多くの時間と労力が必要です。

Kheffache 氏は言います。「業界が目指すべき方向はどこか? その答えはとてもシンプルです。『無駄を省くことで、すべてがうまく行く。』技術偏重から脱却し、ありのままを素直に形にしてみることですね。」

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